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公開日:2015.12.10

絵本「しでむし」の原画展示
堀西の作家・舘野鴻さん

  • 絵本「しでむし」の一場面を描いた原画

  • 作品に筆を入れる舘野さん

 生き物たちの息遣いを忠実に再現しつつ、命をテーマに繰り広げられる壮大なストーリー――。秦野市堀西在住の絵本作家・舘野(たての)鴻(ひろし)さん(47)作・絵の絵本「しでむし(偕成社/2009年)」の原画展が2016年1月11日(月)まで神奈川県立秦野ビジターセンターで開かれている。入場無料。

 表題になっているシデムシは動物の腐肉などを食べる甲虫。漢字で「死出虫」と書く。同作に登場するヨツボシモンシデムシは秦野市内の山林にも生息しており、ネズミや小鳥など小型の脊椎動物の死骸を丸めて肉団子にし、その上で子育てをする。死体を土に還す役割を担う、いわば「森のおそうじ屋さん」だ。この絵本では、そんなシデムシやアカネズミが関わり合いながら懸命に生き、死にゆく姿が淡々と、かつ丁寧に描かれている。

専門家も納得の正確な描写

 「舘野さんの描く生き物は、専門家の人が見ても正確なんですよ」。そう話すのは、同センターの担当者・長澤展子(のぶこ)さん。鉛筆や絵筆で描かれた原画は、植物や昆虫の研究者が一目で種類を特定できるほど緻密で正確。しかも写生や写真のトレースは使わず、一つひとつ種の特徴を理解した上で描き出され、美しく見えるよう配置されている。「絵描きは『何か違う』と思われたら終わり」というのが舘野流だ。

昆虫を通して命を伝える

 「科学的でありながらも、読んだあと脊髄の中に嫌な思いが残るような絵本にしたかった」と舘野さん。丹沢の山中で調査と観察を繰り返し、死にそうな姿、肉団子になっていく様子を見守った。取材に2年、作画に2年奮闘し、登場する動物の死を描きながら自身の死に思いを馳せる日々は、精神的疲労との戦いだったという。

 出版後「絵本はもうやめよう」と思っていたとき、業界で有名な元福音館書店の絵本編集者・澤田精一さんの言葉が胸に響いた。「『しでむし』を作ったときの気持ちを忘れないでほしい」。澤田さんは1年間に出版されたすべての絵本の中で1冊を選ぶ際、「しでむし」を指名。舘野さんは「おかげで覚悟が決まりました」と振り返る。

 現在は2016年4月に出版予定の次回作「つちはんみょう(偕成社)」を制作中。「しでむし」以降、やや柔らかいタッチの作品も手掛けた舘野さんが再度命と向き合い、厳しい自然界で純粋に生きる甲虫・ツチハンミョウの姿を描く。

 ツチハンミョウの生態についての研究論文が少ないため、寄生の仕方や生活の様子を自ら調査。その中で学術的発見をしたため、昆虫の専門誌に論文を書くことになったという。

 舘野さんは横浜市出身。1996年、丹沢の自然を求めて秦野に転居した。生態調査をしながら図鑑や児童書の景観図や解剖図などを手掛けていたが、画像ソフトの進歩などにより仕事が減り、初めて挑戦した絵本が「しでむし」だった。

 「生き切ったあとに迎える死は、偉大なこと。命のサイクルが速い分、端的に伝えられるのが昆虫だと思います。無垢で勇敢で潔い。そう思うと美しく描きたくなるんですよ」と舘野さんは微笑む。

期間中にトークイベント

 今回の原画展「森のおそうじ屋『しでむし』の世界」では、原画だけでなく、登場する虫の標本やラフスケッチなども展示。森での生態調査の様子も写真付きで紹介されている。

 また、12月26日(土)と1月9日(土)には舘野さんのトークイベントも開催。同センター展示室奥で午後1時半から2時10分。同作の作成秘話や自然との付き合い方などを聴くことができる。参加費・申し込み不要。

 問い合わせは同センター【電話】0463・87・9300へ。

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