鎌倉市文化財専門委員会が7月8日、市役所で開催され、JR北鎌倉駅に隣接するトンネルが掘られた尾根について、「文化財としての価値を有する場所」とする判断を出した。
このトンネルをめぐって市は昨年8月、岩の剥落や災害時の崩落の可能性から、岩そのものを切り崩す「開削」による安全対策の実施を決定。今年4月にいったんは工事に着手した。
しかし手続きのやり直しが必要となったことなどから工事はストップ。さらに6月に文化庁から「トンネルが掘られた尾根は、重要文化財の『円覚寺境内絵図』に描かれた境界を示す稜線の可能性がある。第三者による委員会を設置し、文化財的価値の検討を」とする要望が出された。
これを受けて市は、市有文化財の価値などを話し合う文化財専門委員会に外部の専門家を加え、検討を行うことを決めていた。
この日の委員会では、市道路課がトンネルの概要や安全対策に関するこれまでの議論、開削決定に至る経緯などについて説明した。
続いて文化財課が、尾根は1967年の国指定史跡の範囲に含まれていないこと、トンネルが掘られている現状や尾根の両側で宅地や墓地の造成が進んでいること、横須賀線開通の際に削られたと考えられることなどから「もともとの状態が大きく失われており、史跡として指定をかけて保護を図る状況ではないと判断している」と説明した。
「中世の境界、今に残す場所」
保存求める声相次ぐ
北鎌倉駅そばのトンネルが掘られた尾根の「文化財的価値」を検討する専門委員会は、7人の委員に外部の専門家として中世史を専門とする藤原良章・青山学院大教授、五味文彦・東京大学名誉教授が加わって開かれた。
まず議論の根拠ともなっている円覚寺境内絵図(1333〜1335年)について「制作者の恣意的な視点や変更が入っている可能性があるのでは」という意見が出された。これに対し、絵画史を専門とする委員は「鎌倉幕府が滅亡した後、改めて境界を確定するために描かれたもので、かなり客観的に描かれている」として「トンネルのある尾根は絵図に描かれた境界に該当すると思う」と述べた。
その後は委員から「絵図と照らし合わせて中世の境界としてイメージしやすい」「史跡指定に向けた努力をするべき場所だ」「文化庁の指導を受けたことは重い。残っているものは残すのが文化財保護の基本」として、価値を認め、保存を求める声が相次いだ。
また「一部が削られたからといって価値がないと判断することは危険」「史跡として指定されたものだけを守るのか。世界遺産への再挑戦を目指すならば、むしろ指定外の物をいかに守るかを考えるべき」など市の文化財施策を疑問視する声も多く出された。
こうした議論を受けて会長を務めた河野眞知郎・元鶴見大学教授は「トンネルが掘られた尾根は、文化財としての価値を有する場所」と結論づけた。
トンネルの価値言及も
話し合いの過程では、トンネルそのものの価値に言及する意見も。「鎌倉では住みやすさを求めて、市内各所にあった素彫りトンネルが近代的なものに置き換えられて来た。トンネルそのものを保存する意味もあるのでは」や「トンネルは生活に溶け込むことで人々の癒しとなり、記憶に残る文化的景観になっている」などの声もあった。
市担当者が「トンネルに安全対策が必要なのは間違いなく、開削は最も安全で工事の範囲も狭いことから採用を決めた」としてその是非について尋ねると、多くの委員は「判断する立場にない」として意見を控えたが、「文化財的価値があるのであれば、やるべきではない」や「人命第一は当然。文化財を守ることと安全や生活の利便性の両立をどう考えるのか。保存していくとなれば、市民にも覚悟が必要で、まち全体でさらなる議論が必要だ」とする意見も出された。
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