古い民家や入り組んだ谷戸にある空き家—。これを活用して、「集いの拠点」を創出する例が増えている。建物の趣きや構造を活かした再生、若者のコミュニティ拠点創出など、人とのつながりから、新たな出会いが生まれている。三浦半島地域の取り組みの事例を紹介する。
築100年の古民家がカフェに
葉山大道交差点近くに昨年12月、カフェがオープンした=写真左。その名も「カフェテーロ葉山」(一色1532)。それまでは、背の高い木に覆われ、人が住んでいるかどうか近所の人でもわからなかったという建物が、地域住民が集う憩いの場に変身した。
築100年以上の古民家を改装し、中米コスタリカのスペシャルティコーヒー専門カフェをオープンしたのは、大下力さん(60)。
大下さんはサラリーマン時代、中南米に駐在し、その時訪れた同国のコーヒーにのめり込んだ。リタイア後、現地を渡り歩き、自分の目と舌で選んだ農園と取引関係を構築。現地で焙煎、パッケージした豆を3年前から「葉山ステーション」などで販売している。
「自分の街で店を持ち、より多くの人にこのコーヒーの魅力を知ってほしい」と物件を探していたところ、不動産会社から連絡が入った。そこは自宅からすぐ近くの、いつも通っている道沿いにあった平屋の建物だった。「今まであまり気にしたことはなかった」という大下さんだったが、室内に入った瞬間、思わず声が出たという。見事な梁や古き良き縁側、部屋ごとに異なるしつらえは当時の職人の技が随所に散りばめられ、「これほど見事な古民家が近所にあるなんて驚きました。その場で申し込みました」
物件のオーナーによると、正確な記録は残っていないものの、100年以上前に千葉から葉山へ移築されたものだという。今回のリフォームは日本建築に強い藤本工務店(葉山町上山口)が担い、もとの建物が持つ魅力を損なわないよう玄関を新設し、畳をフローリングに張り替えた。「担当してくれた大工さんからは色々と勉強になったと言われました」と笑いながら振り返る。
農園の味広めたい
大下さんがこの古民家で目指すのは、コスタリカの農場に併設されたカフェのような、日常の幸せを感じられる場所作りだ。「地球幸福度指数ランキングで世界一になったことがあるコスタリカは合言葉が『そこそこが一番』。地域コミュニティを大事にして日常生活を楽しむマインドが人々の根底にある。家族や友人とコーヒーを楽しみながらおしゃべりをする。そんな時間をここ葉山でも味わってほしい」
その言葉通り、オープン以来、近隣住民を中心に多くの人が訪れている。本を読んだり、友人とおしゃべりするなど思い思いの過ごし方をしており、「居心地が良い」と好評だという。「この建物がもつ空気でしょうね」と語る大下さん。ゆくゆくは、地場産の食材や地元の作家による作品を扱うマーケットや映画上映、コンサートのほか、ギャラリーとしての貸し出しなども行っていきたい考えだ。「コスタリカやこの古民家など、多くの出会いでここまで来れた。これからは地域の人が集い、文化を発信できる場を作りたい」と意気込んでいる。
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