日本国憲法の制定過程から学ぶ 極東委員会の「シビリアン」要求 〈寄稿〉文／小川光夫 No.92
8月20日、小委員会最終日（第13回）になり、ゲストとして金森徳次郎国務大臣が出席した。芦田の話が終ると、すぐに金森は、「突然、昨日（8月19日）、マッカーサー元帥がワシントンから極東委員会の意向について電報を受け、その内容を吉田総理大臣に伝えてきた。これは憲法全体から見れば重要なことではないと思うが、その意向内容をよく考えて善処してもらいたい、と云ってきた」と述べた。
金森によると極東委員会の意向は、8月10日の第10回芦田委員会で纏まった63条に内閣総理大臣は「シビリアン」であること、その内閣総理大臣は国会議員の中から指名されることを加えること、そして第64条にも国務大臣は「シビリアン」であること、国務大臣の過半数は国会議員から選ばれることの２点について修正、加筆することであった。「シビリアン」について、笠井重治議員より、「シビリアンとは、非軍人ばかりではない、民間人という意味ではないか、極東委員会はノン・ミリタリーと謂っているのですか」という質問があった。鈴木義男議員から、「プレスに発表しないことは注意するけれど、新聞記者は煩いから、政府から発表しないほうがよいのでは（当時プレス・コードというＧＨＱの出版規制法があって自由に表現できなかった）」という意見もあったが、金森は、「これは注意してください。これをやるとＧＨＱに罰せられるから」と慌てて打ち消した。また「閣僚の過半数は国会議員でなければならい」については、犬養健議員より、「これは余りにも当たり前のことで結構だとは思わないが、このことだけは、後々のために速記に残したい」という発言があった。鈴木議員は、「これは余り読む人を低能扱いにする書き方です。内閣総理大臣は国務大臣を任命する、但し内閣総理大臣は過半数を国会議員から選ぶとか、選ばなければならないとか云うようなことは、余り幼稚で、憲法案としては反対である」と主張した。結局、各党に持ち帰って党としての態度を明らかにすることになった。こうして小委員会は終了して、翌日の8月21日に帝国憲法改正案委員会で、小委員会報告がなされ、極東委員会の申し出以外の憲法改正案はすべて修正可決された。さらに8月24日の衆議院本会議においても賛成４２１、反対8で可決され、憲法改正案はただちに貴族院に送付されることになった。この衆議院本会議で「日本国憲法」の制定に反対したのは、現在では護憲政党と云われる共産党全員（野坂参三、徳田球一、志賀義雄など）と社会党左派の穂純七郎、細迫兼光の２名であった。
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