本牧 気まぐれ歴史散歩 89 国宝 曜変天目(稲葉天目)
小野光景(みつかげ)は、横浜正金銀行・横浜商工会議所・横浜商業・神奈川新聞の設立に寄与し、生糸売込商としても財を成し、横浜の発展に尽くした中心人物の1人です。光景が所有していた土地の一部は、現在、八聖殿が建つ本牧臨海公園となっています。
曜変天目とは、12〜13世紀の南宋のうち現在の福建省で作られたとされる天目茶碗のうち、最も高価なものとして室町時代から記録が残るものです。完全な形で現存する曜変天目は3点で、3点とも日本にあり、すべてが国宝に指定されています。そのうちのひとつが、江戸時代に稲葉家に伝えられていた稲葉天目です。稲葉氏は、徳川三代将軍・家光の乳母を務めた春日局(稲葉正成の妻)を輩出した一族であり、稲葉天目は家光が春日局に煎じ薬を飲ませるときに使った茶碗と伝えられています。
光景の後継者・哲郎は、その稲葉家から妻を迎えました。その後、稲葉家は稲葉天目を手放すことになりました。しかし、大正7年(1918年)に競売にかけられた稲葉天目は16万8000円(現:4億4千万円くらい)という破格で光景が競り落としたのでした。光景没後に稲葉天目を相続した哲郎も維持しきれなくなり、昭和9年(1934年)に三菱財閥の岩崎小彌太に売却され、現在は静嘉堂文庫美術館の所蔵となっています。
光景の碑がある公園から、本牧大里町の住宅街に入っていきます。(文/横浜市八聖殿館長 相澤竜次)
|
|
|
|
|
|