中原区 人物風土記
公開日:2025.11.21
12年ぶりに新たな市消防音楽隊の隊長に就任した
井坂 好希さん
麻生区在住 38歳
市民の日常に消防の存在を
○…川崎市消防音楽隊の新隊長に今年4月に就任した。隊長交代は12年ぶり。「広報する音楽隊」を目指し、SNSでの発信など新たな取り組みに挑戦している。今夏には中原区内の市立井田病院で音楽隊として初の院内コンサートを開催。ベッドのまま鑑賞した患者もいた。病院との調整役を担っただけに「楽しんでいただけてよかった」と笑みを見せる。
○…18歳で消防隊に入隊し、一度は退職して大学卒業後に再入隊した。異色の経歴の理由は「命の尊さに何度も触れたので」。2歳の時に心肺停止となり、父の蘇生で助かった。大学時代は親友の死に直面。祖母は脳の手術直後に死亡した。再入団後は市内各地で救急の任務にあたり、多数の死者が出た2015年の簡易宿泊所火災では救命の順序を決める「トリアージ」を担当。つらい任務でも、「命は『あって当然』ではないもの」と、現場で最善を尽くすことに集中してきた。
○…音楽隊には7年前に志願。音楽経験はゼロだったが、救急任務にあたる中で、「広報」の重要性を痛感したという。「例えば我々は救急車の適正利用を訴えているけれど、多くの市民が市内の救急車の台数を知らない。消防の情報を、伝えていきたい」。市民と触れ合う機会の多い音楽隊が、最適と考えた。
○…音楽隊は配属後に初めて楽器を触る隊員も多い。自身も人生で初めてトランペットに触れ、プロの指導者に師事して基礎から学んだ。宿直明けには、カラオケボックスで次の勤務まで練習した。「音楽は難しい」と苦笑するが、目指すのは「至高の音」ではない。「市民の日常に消防の存在を根付かせることで、防災意識や適切な救急利用につながる。音楽隊がその一翼を担えるよう、全力を注ぎたい」
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