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多摩 教育

公開日:2026.10.22

「答えの在処」-保育から育成へ- 取材協力/社会福祉法人こばと会

  • 西落合小学童クラブ 学童畑での様子

    西落合小学童クラブ 学童畑での様子

  • 西落合小学童クラブ施設長 山野曜子さん

    西落合小学童クラブ施設長 山野曜子さん

  • 落合第二学童クラブ 宿題に取り組む様子

    落合第二学童クラブ 宿題に取り組む様子

  • 愛宕南学童クラブ施設長 藤井豪さん 

    愛宕南学童クラブ施設長 藤井豪さん 

  • 東愛宕小学童クラブ 外遊びの様子

    東愛宕小学童クラブ 外遊びの様子

 共働き家庭の増加などを背景に、放課後を支える学童クラブの役割がますます重要になっている。学校でも家庭でもない「第三の居場所」であり、遊びや人との関わりを重ねる生活の場だ。多摩市で半世紀以上にわたり、地域の保育・育成に取り組んできた社会福祉法人こばと会(諏訪/元井由隆理事長)は、多摩市から委託を受け、市内6か所の学童クラブを運営している。これまで同法人の保育園での育ちを見つめてきた本シリーズ。第三回からは学童クラブに舞台を移し、広がりゆく子どもたちの世界を追う。

第3回 「それぞれの声の先に」

 学童クラブに通う年齢の子どもたちは、生活環境や人間関係が大きく変化する時期にある。家庭や幼稚園・保育園など、慣れ親しんだ環境から、より広い世界へと踏み出し、様々な人や価値観と出会う。その中で、自分の考えや好みを表現する場面が増える一方、思い通りにならないことや、他者との葛藤に直面することもある。

 こばと会では、乳幼児期から一貫して子ども一人ひとりの意思を尊重し、「健全な意思決定」ができる力を育むことを大切にしている。自己主張や反発、友達との衝突など、大人にとって気になる言動も、問題として捉えて指導するのではなく、まず「どうしたの?」と尋ね、その子の思いや背景を理解する。自分の気持ちをうまく表現できなかった子どもも、意思を尊重される経験を重ねることで、少しずつ自分の思いを伝え、自ら考え、選ぶ力を育んでいく。

 「健全な意思決定」を支える土台となるのが、こばと会の職員が繰り返し学んでいる包括的性教育の「同意」と「バウンダリー(境界線)」という考え方だ。同意とは、相手の意思を確かめ、尊重すること。単に「いいよ」という返事を得るだけではなく、相手が本当に納得しているか、断ることができる状況にあるかにも目を向ける。一方、バウンダリーとは、自分と相手との間にある境界線のこと。身体だけでなく、気持ちや考え方にも、それぞれが大切にしたい領域がある。自分の意思を尊重することと同じように、相手の意思も尊重する必要がある。

育ちを支えるということ

 西落合小学童クラブの施設長、山野曜子さんは、大学で心理学を専攻し、子どもの発達や発達障害について学んできた。もともとはスクールカウンセラーを志し、「子どもの話を聞き、悩みに寄り添いたい」という思いから、学童クラブの仕事を選んだ。しかし、約二十年前の入職当初は、自分が正しいと考える生活習慣や礼儀、ルールなどを子どもたちに「しつけなければ」と思っていたという。「自分が思い描いていた理想と現実のギャップが大きかった」と振り返る。大学で学んだ知識だけでは理解しきれないことも多く、子どもたちとの関わり方を模索する日々。こばと会での研修や他の職員との対話、時には意見をぶつけ合う経験を通して、自分自身の価値観を見つめ直していった。その中で実感したのは、子どもたちが安心して思いを伝えられる信頼関係の大切さ。今は、大人が答えを与えることではなく、子ども自身が考え、選ぶ機会をつくることを大切にしている。

 例えば、学童クラブでは帰ってきたら宿題に取り組むという基本的な流れがある。しかし、「やりたくない」という子どももいる。帰宅後に一人で留守番する時間が長く、宿題は家で済ませ、学童では友達と遊びたいという理由があるかもしれない。そんなとき、決まりだからと一律に宿題をさせるのでも、希望をそのまま受け入れるのでもない。なぜそうしたいのかを聞き、必要に応じて「少しだけ宿題をしてから遊ぼう」など、互いに納得できる方法を話し合う。自分の希望とその理由を伝え、相手の考えも聞きながら折り合いをつける「交渉する力」も大切だという山野さん。

 ドッジボール大会を例に、大人の関わり方の違いも説明する。以前なら、職員がルールや役割を決め、子どもたちに指示していたかもしれない。今は「どうしたらみんなが楽しくできるだろう」と問いかけ、子どもたち自身が考える機会をつくっている。上級生が得意な役割を希望する一方、下級生も同じ役割に挑戦したいと思うことがある。そんな場合には互いの希望を聞き、役割を調整していく。その過程で、自分の思いを伝えることも、相手の立場を考えることも学んでいく。大人の役割は、正解を教えることだけではない。子どもたちが学び合いながら育っていく姿を見守り、支え、必要な働きかけをすることだと山野さんは話す。

「子ども達はすごく真剣に生きて、一生懸命楽しんでいる。可愛いなと思う」その言葉からは、友達との衝突も、思い通りにならない悔しさも、子どもたちのさまざまな姿を受け止める温かな眼差しが伝わってくる。

どんな姿も受け止めたい

 入職10年目、愛宕南学童クラブで施設長を務める藤井豪さんは、学童クラブならではの大人と子どもの関係を「斜めの関係」と表現する。親や教師、友達とも異なる距離感。学校や家庭では話せないことを話し、普段は見せない姿も見せられる、子どもが自分を解放できる場所であってほしいと願う。その関わりを支えるのが、こばと会で重ねてきた学びだ。包括的性教育による子どもの人権や意思の尊重に加え、発達や脳科学についても学び、子どもの行動の背景にある理由や気持ちにも目を向ける。自分の経験や価値観だけで判断せず、一人ひとりに必要な関わり方を考えている。

 その一例が、学童での活動を通して見えてきたある女の子の変化だ。普段は静かで、周囲の様子を見ていることが多かった子が、学童内のダンスクラブで友達と関わるうちに、自分の考えを言葉にするようになった。選曲や練習の進め方をめぐって友達とぶつかる場面もあった。しかし、それは単なるトラブルではなく、自分の考えを相手に伝えようとする姿でもある。学校では依然として静かな一面を見せているという。同じ子どもでも、場所や人間関係、その日の気持ちによって表れる姿は異なり、そのどれか一つが、その子のすべてではない。集団の中でどのように振る舞うかだけではなく、その子自身が何を感じ、何を望んでいるのか。子ども自身との対話や、必要に応じた家庭・学校との連携を通して、多角的に子どもの姿を捉えることを大切にしている。

 自分の思いを表現するようになれば、友達と意見が食い違うことも当然ある。そんなとき、大人はつい「こうした方がいい」と、自分が考える解決方法を示したくなる。しかし、大人が先回りして答えを出してしまえば、子どもたちが自分の気持ちを伝え、相手の考えを知る機会を奪ってしまうことにもなりうると藤井さんは話す。子ども同士のトラブルが起きても、安全が確保されている限り、すぐには介入せず、まずは子どもたち自身で解決する機会を大切にしている。「困ったら呼んでね」と声を掛け、必要なときには双方の話を聞き、気持ちのすれ違いを整理する。例えば「無視された」「無視していない」という行き違いも、それぞれがどう感じ、何を考えていたのかを確かめることで、互いを理解するきっかけになるという。

 一方で、困っていることを言葉にできない子どももいる。子どもの表情や友達とのやりとりを丁寧に捉え、声にならないSOSに気づくことも必要だと話す。子どもが今どのような成長段階にあり、何を感じ、何を経験しているのか。その理解を深めながら、見守るべき場面と手を差し伸べるべき場面を見極めているという。

 「自分がかける言葉によって子どもたちの姿が変わる」自身の日々の言動が子どもたちだけでなく、共に働く職員にも影響を与えていることを実感している藤井さん。子どもたちや職員の「見方、感じ方、考え方」の幅を広げていくためにも、自らが常に学び、視野を広げることを心がけている。

一人ひとりが満たされること

 保育園から学童クラブへ。子どもたちの世界は広がり、関わる人も、見せる姿も変わっていく。大人もまた、子どもたちとの関わりを通して、自らの考え方や価値観を見つめ直していく。互いの思いが必ずしも一致するわけではない。

 元井理事長は、「健全な意思決定」には、自分の意思や意図が相手に届いているか、相手の立場に立ち、何を望んでいるのかを掴めているかという、相互理解やコミュニケーションが大切だと話す。コミュニケーションの大切さは大人も子どもも変わらない。年齢を重ねれば自然と上達するものではなく、共に考え、繰り返し練習することで身についていくものだと強調する。

 「自分の存在を認めてもらい、話を聞いてもらえること。それが、人が満たされていく道筋となる。満たされる経験を通して、自分自身を大切に思える子どもが増えてほしい。そして、自分を大切に思える子どもが、今度は誰かを大切にできるようになってほしい」と語る元井理事長。

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