靴底をすり減らすほど現場に出向き、親切の押し売りをする――。「川崎モデル」と呼ばれる川崎市経済労働局と川崎市産業振興財団の中小製造業支援が、全国各地の自治体や金融機関から注目を集めている。9月9日には、社会起業大学が主催する「ソーシャルビジネスグランプリ」の政治起業家部門でグランプリにも選ばれた。評価を高めるきっかけとなった一冊が『なぜ、川崎モデルは成功したのか?〜中小企業支援にイノベーションを起こした川崎市役所〜』だ。
著者は、シンクタンク・ソフィアバンク代表を務め経済評論家やキャスターとして活躍する藤沢久美さん。09年から川崎市役所を定期的に訪問し、市役所職員や市産業振興財団職員らとともに市内企業を訪れている。
仕事柄、これまで多くの国や自治体の職員とも接している藤沢さんは、川崎市の中小企業支援は血の通ったものであると実感。「これを伝えなければ」との思いに駆られ、執筆したという。
四六判、231ページにわたって書かれた本は、現在企画課長補佐の木村佳司さんとの出会いから始まる。
タイトルの「川崎モデル」は、市役所や市産業振興財団職員、訪問先の経営者との会話の端々にでてきた言葉だ。定義は、人によって様々で、ある人は「おせっかいのように企業に提案や手伝いをし続ける人」を指し、「表彰制度を作って頑張る企業に光を当てる人」、「大企業の特許制度を地元中小企業で活用し、新製品開発に手を差し伸べる人」を意味するという人も。ただ、共通するのは皆、支援する企業のことを熟知し、「自分のことのように企業が何をすべきかを考え、実践すること」と藤沢さん。「最終的に地域活性に結びついている」という。
全5章で構成され、第1章では20年前の川崎モデルの原点まで遡る。円高による産業空洞化に危機を抱いた伊藤和良局長や田村豊産業振興部長らが勉強会を開催するとともに、中小企業の現場に足を運ぶようになる当時の苦労話などが綴られている。
2章から5章までは、市役所職員、市産業振興財団職員で構成された「チーム川崎」と呼ばれる職員たちが現場に足を運び続け、企業からの信頼を勝ち取るまでの営業プロセス、支援を受ける企業側の市に対する見方や地域密着営業を展開する金融機関からみた評価などが紹介されている。
川崎市によると、今年4月に同書の出版後、愛知県、岡山県津山市、大阪府堺市、東京都など多くの自治体が視察に訪れているという。9月には社会起業大学が主催するソーシャルビジネスグランプリの政治起業家部門でグランプリを受賞。「これを追い風に、さらに中小企業の商売につながるよう頑張りたい」と企画課の小沢正勝課長はいう。
一方、出版元の実業之日本社の安田宣朗(のぶあき)さんによると、6千部の発行のうち、5割ほど売れ行きをみせているという。「川崎だけでなく、関西、東北など地方から購入もある」とも語る。「ビジネス本としても役立つ」と公務員以外の購入者も少なくないといい、中でも「アベノミクスが掲げる地方創世のアイデアにもつながる」と金融機関からの関心は高いという。
価格は税別1400円。各書店で販売中。
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