町田市立博物館より㉒ 実は透明じゃない!?ガラスの色について 学芸員 齊藤晴子
現在、博物館で開催中の「青野武市作品受贈記念―ガラスに、彫る―日本のグラヴィール」展(11月27日まで)では、120点程のガラス作品が展示されています。展示室に入ると、透明なガラス作品の中に、本紙に掲載されているような赤い作品が多数展示されているのが目につくかと思います。
さて皆さん、ガラスの色は何でつけられているか、ご存知でしょうか?実はガラスの色は、ガラスに含まれる金属酸化物の種類で決まっています。左の《金赤被(きんあかき)せカンナ文花器》は、作品名からも読み取れるように、金で発色させた赤いガラスを使用しています。制作方法をもう少し詳しくご説明すると、透明なガラスの上に金で発色させた赤いガラス(専門用語で「金赤(きんあか)」と言います)を薄く一層重ねて、その後表面の赤い部分を削り取って文様を浮かび上がらせています。
金で発色させるとこのようなピンクがかった赤色になりますが、ガラスを赤く発色させるには他にも銅やセレンという金属が使われることもあります。赤といっても金属ごとに発色の色調は異なり、例えば銅で発色させる「銅赤(どうあか)」は血のように深い赤色、セレンで発色させる「セレン赤」は少々けばけばしい赤色になります。ちなみに薩摩切子に見られる深い赤色は、銅発色によるものです。
ここまでは金属を加えるとガラスが着色するというお話をしてきましたが、それでは何も加えなければガラスは透明なのでしょうか?答えは×です。電車やバスの窓ガラスの色を思い浮かべていただきたいのですが、ガラスはあまり手を加えない状態ではあのような薄青緑色になります。ガラスの主な原料である珪砂(けいしゃ)には、自然の状態では鉄分が混入しており、その鉄がガラスを青緑色に発色させてしまうのです。ガラスを透明にするには、光の三原色の原理で青緑色を打ち消す、補色の赤紫色に発色する二酸化マンガンなどの金属をガラスに投入しなければなりません。ヨーロッパでは長らく、イタリアのヴェネチアだけが透明なガラスを作れる時代が続きましたが、これはヴェネチアだけがこのガラスを透明にする方法を知っていたからでした。今では当たり前のように思える透明なガラスは、実は高度な知識と技術を駆使し、かなり人為的に作られた産物なのです。このようにガラスの色に思いを馳せながら展覧会をご覧いただくと、また違った見方ができるかもしれません。
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宮司の徒然 其の137町田天満宮 宮司 池田泉12月21日 |
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宮司の徒然 其の135町田天満宮 宮司 池田泉11月30日 |