―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空 第15回 作者/前野 博
(前回からのつづき)
村上が女の子に声をかけた。
次の順番の女の子がキミの前に座った。
えつ子は、まだ停留所の方を見ている。
「親が、子どもに面会できるのは、月一回と決まっているのですよ。えつ子の母親は、面会に来たばかりだから、暫く来られない。でも、来るのではないかと、バスの停留所を見ている。どの子どもも同じですよ。親に会いたいし、一緒にいたいんですよ。寂しいんです」
村上は、由江がバリカンでくりくり坊主にした男の子の頭を撫でながら言った。
元八王子村から八王子の駅まで行って、電車に乗れば、品川には一時間半ほどで到着する。北関東や、東北に集団疎開した学童に較べれば、ずっと便利であった。面会は月一回とは言うものの、病気に罹ったり、緊急の用事がある場合は、親が迎えに来て、家に帰ることができた。
最初の内は、親も何かと理由をつけては、子どもに会いに来たし、家に連れて帰ってもいた。でも、十一月になると、そういう訳にはいかなくなった。いつ空襲されるのかと、危惧が増してきていた。親も、食料の調達、防空訓練や勤労奉仕と忙しくなった。月一回の面会に来るのが、やっとの親が多くなった。
集団疎開先の食料事情も悪くなった。いじめも増えてきた。腹は減るし、嫌なことが多くなった。親に会いたい、家に帰りたい気持ちが募っているのがよく分かった。逃げ出す子どもも少なくなかった。八王子駅で、駅員や巡査に捕まって、連れ戻される。うまく逃れて、親元に帰っても、二、三日経って、親と一緒に帰って来た。
「可哀相だけれど、この非常時だ、誰もが大変で辛い思いをしている。子ども達に我慢を強いるのも、仕方のないことだ」
村上が空を仰いで、言った。高尾の山並みが、夕日に染まっていた。キミ達の散髪の勤労奉仕も、ようやく終わった。 〈つづく〉
◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「キミ達の青い空」を不定期連載しています。
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