鶴岡八幡宮の大イチョウをモチーフにした創作能「大銀杏」の脚本を手がけた 大江 隆子さん 大町在住 60歳
「鎮魂と再生」作品に託す
○…心身ともに傷ついた東北の僧侶がある夜、大風で倒れた鶴岡八幡宮の大イチョウとそのひこばえを夢に見る。不思議に思い実際に訪れてみると、そこで庭を掃く老人に呼び止められる。その老人こそが大イチョウの精だった――。そんな創作能「大銀杏」の脚本を手がけ、昨年末には都内で初上演した。「大イチョウと東北鎮魂をテーマにした作品。鎌倉や東北でも上演して、多くの人に見てもらいたい」とほほえむ。
○…鶴岡八幡宮の大イチョウが倒れたのは、2010年3月10日の早朝。季節外れの強風が原因だった。「何が起こったか知らずにいつも通り散歩に出かけたんです。横倒しになった大木を見て愕然としました」と振り返る。近所や友人らの間でも衝撃が大きく、しばらくは大イチョウの話で持ちきりだった。「作品として記憶に留められれば」と創作能の制作を開始したところ、1年後に東日本大震災が発生。「あれは大イチョウからのメッセージだったのかもしれない」と犠牲者への鎮魂の思いも作品に込めた。「大イチョウはひこばえが芽吹き、再生のシンボルになりました。この作品が被災地へのエールとなれば」と穏やかな表情で話す。
○…東京都出身。若い頃はバレエや長唄に打ち込んだ。夫の転勤を機に鎌倉へ。子育てに追われ好きだった踊りから離れていたが、15年ほど前、稽古のために長谷に来ていた能楽師・観世元伯さんの下で能を習うようになり、47歳で東京芸術大学に入学。卒業後は邦楽作家として能をはじめ狂言、長唄、琴の作品作りに取り組んでいる。
○…「能は要素をぎりぎりまで削ぎ落とした、とてもシンプルな作り。見る人それぞれが違った解釈を添えられるのが魅力なんです」と話す。「初上演は後半部分だけだったので、『大銀杏』を全編通して見てもらえる場をもちたい。鶴岡八幡宮や東北での公演を実現することが当面の目標」と笑顔で語った。