町田天満宮 宮司 池田泉 宮司の徒然 其の103
山吹
春の陽気に早くも山吹の蕾の先っぽが黄色くなってきた。山吹が咲く頃が渓流の毛鉤(けばり)釣りの開始時期とされるのは、その頃になるとカゲロウなどの虫が飛び始めるからだ。とは言え、低地の町田辺りで山吹が咲き始めるのは早いが、標高の高い渓流の春は遅いから、せいぜい5月くらい。数年前、五月のゴールデンウィーク明けに町田市の宿泊施設がある長野県川上村千曲川支流の梓川に出かけた時のこと。夜明け前に到着して車内で仮眠を摂っていた。薄明るくなってきた頃に思わず寒さで起きた。車の周りが白い。明け方に雪が降ったようだ。5月なのに。とにかく遥々3時間もかけて来たのだからと、毛ばりを振り込んでみたものの、そんな寒さでは虫は飛んでいないからイワナに怪しまれるのは間違いない。まったく反応がないので止む無くエサ釣り用の竿にチェンジ。川虫を捕って投げ込んだ。その時初めて自作の目印を使った。渓流のエサ釣りにウキはない。代わりに、糸がどの辺にあるか、エサをどれくらい沈めているかが分かるように糸に目印を付ける。最近はプラスチック製の便利なものが売っているが、なかった時代には山吹の芯を利用した。山吹の太い茎と細い茎を切り取り、細い茎を太茎に水鉄砲のように差し込む。すると太い茎の芯が押し出される。きめ細かい発泡スチロールの紐に似ている。これをよく乾かせばこのままでも使えるが、蛍光塗料を塗ればなお見やすい。縫い針で芯に穴を空ければ完成。
渓谷に山吹が咲く頃、山吹の芯を目で追い、その日の魚を清流からいただく。なんて良い言葉の響きだろうと己に酔いしれたとしても、釣れない時は釣れない。午後は冷たい雨となり納竿。沢歩きを楽しんだだけでも良しとしようと、残念な気持ちを納得させる。釣り人はこの繰り返しかもしれない。
経済先進国でありながら緑多い日本は貴重な国だ。これ以上の環境破壊は避けたい。そんなことを願いつつも、趣味優先で山野に排気ガスを撒き散らしてきたことは後ろめたい。今はハイブリット車に乗っているが、早く庶民のために安価な電気自動車や水素ガス車を売り出してくれないだろうか。少しは後ろめたさも軽減される。
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2020年3月5日号
2015年2月5日号