鎌倉 コラム
公開日:2026.07.17
鎌倉のとっておき 第196回 かまくら花めぐり(萩)
初秋の頃、しなやかな枝いっぱいに繊細な小花を咲かせる萩。やせた土地でもしっかりと根付く強い生命力をもつ萩は、秋の七草にも数えられ、古の『万葉集』で最も多く詠まれている花である。
大伴家持は「さを鹿の朝立つ野辺の秋萩に 玉と見るまで置ける白露」と、朝、牡鹿が佇む野に咲く萩に、玉(真珠)のように美しい、沢山の白露が付いている情景を詠んでいる。
また天武天皇の皇子・弓削皇子(ゆげのみこ)は「我妹子(わぎもこ)に恋ひつつあらずは秋萩の 咲きて散りぬる花にあらましを」と、愛しいあなたに恋い悩んでいるくらいなら、秋萩のようにただ咲いて散ってしまいたいものだと、叶わぬ恋心を詠んでいる。
そんな萩の花咲く名所といえば、まずは北条氏歴代執権屋敷跡に建つ宝戒寺。「萩の寺」としても有名で、参道や境内で紅白の花々が咲き揃う。特に本堂前一面に咲く白萩は、量感も豊かで見ごたえ十分である。次に浄光明寺。境内が萩の花々であふれる。花期も終わる頃には、鐘楼前で散り
零(こぼ)れた沢山の花々が紅白の美しい絨毯を紡ぐ。さらに海蔵寺。山門の両側で圧倒的なボリュームで流線形に咲く花々は、緑と紅白で彩られた滝の流れのように映る。また成就院では、緑の山々や由比ヶ浜を背景に、紫陽花の返礼にと宮城県南三陸町から贈られた花々を愛でることができる。
日差しにも優しさが戻る古都鎌倉。秋風にそよぐ萩の穂先に、季節の移ろいを感じるまちである。
石塚 裕之
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