綾瀬版 掲載号:2017年1月13日号 エリアトップへ

〈第29回〉渋谷氏ゆかりのコースを訪ねる29 あやせの歴史を訪ねて 綾瀬市史跡ガイドボランティアの会

掲載号:2017年1月13日号

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 頼朝の富士の裾野の巻狩、東国一円に知れ渡っていた。側近・随行の臣・将達、勇壮華美を競いながら、陣の設営に慌ただしく立働いていたが、霊峰富士の頂よりやや南東へ約四里半程の距離の山麓にある十里木(じゅうりぎ)という場所で、狩りの陣を設営する事になっていた。渋谷氏、決められた持場に陣の設営に余念がなかったが、老いたりとはいえ重国の所作に精彩が感じられず、高重をはじめ参陣の一族は気を揉んでいた。

 重国、雲間に見え隠れする富士を仰ぎ見ながら、雲行・空模様だけを案じている訳ではなかった。重国の胸中には、一族の安寧を願う年の功があったが、富士の巻狩に参陣の打合せを重ねている頃、2人の若者が隠密裡に渋谷の庄に立ち寄った。それは曽我兄弟だった。兄弟は曽我の庄で父・河津祐通の仇討ちだけを望みに、艱難辛苦(かんなんしんく)の中でこの日まで生きてきていた。兄弟の母方の姻戚関係であった渋谷家を訪ねたのであった。今生の別れを心の中で告げていた。大方の経緯(いきさつ)は重国、一族の主だった者は承知していた事だろう。重国老練の配慮の言葉があったのか…?事の起りは重国から見てもどちらにも言分のある事だった。人情としては、兄弟の念願が成就する事を心中密かに祈念していたが立場上、唯(ただ)、懊悩(おうのう)するのみであった。老骨の武士(もののふ)の心身(こころ)を苛んだ事だろう。

 時は建久4年(1193年)5月28日。曽我兄弟、孤立無援の突入討入だった!!所詮、蟷螂の斧だったが、天佑が味方した。富士山麓裾野の十里木の辺り、本来はこの時期、運が良ければ壮大な皐月晴れの夕陽が、紅富士が、眼にした人々を感動させてくれるのだが、この日の夕暮れ、帳が下りる頃、重国、先ほどから案じていた空模様。この辺りは季節・気候に依り天候が急変する事は良く有り、地域・地元の人達は知悉(ちひつ)していたが、重国、渋谷氏、東国の武士達、富士山周辺の気象が予測できたか!?雷鳴・稲妻・豪雨は大地を叩き、夜の帳の中、視界は奪われ篝火も大方消えて、天幕の松明の炎が辛うじて耐えていて、何かを予感させる充分な状況だった。

 曽我兄弟、もとより生還を期しえない突入だった。目指す相手は、頼朝に近侍する工藤祐径だった。今は頼朝の信頼を得ている近臣だったが、雷鳴の中、豪雨の中、突入された頼朝の陣営、近臣達、阿鼻叫喚と乱闘が頼朝の周囲で展開された。曽我兄弟の討入りが完璧に秘匿できたのか!?重国を始め渋谷一族、主だった者達、どの様な思いでこの場面に、状況に対応したのだろうか!?頼朝の許に駆け付け度(た)い気持ちと、持ち場を迂闊に離れる事を躊躇、重国にとって永く辛い時間となった夜だった。

 この事、後世「曽我物語」として一世を風靡し歌舞伎・絵本等で永く語り継がれる事となった。天佑が味方したにせよ、兄弟の仇討は成就した。これだけの事件、誰も知らなかった、気付かなかったでは済む事ではなかった。

【文・前田幸生】
 

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