逗子・葉山 社会
公開日:2026.07.03
外洋セーラー 鈴木晶友さん(40歳)地球一周―。ヴァンデ・グローブに挑む 飽くなき好奇心、羅針盤に
たった一人で、一度も港に寄らず、誰の補給も受けずに世界一周する。その過酷さから、「海の上のエベレスト」とも称される世界最高峰の単独ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」。この極限の挑戦に名乗りを上げた男が、葉山にいる-。セーラー・鈴木晶友さん(40)。壮大な旅路の「前夜」にいる彼の眼差しと、胸に宿る確かな大志に迫る。
「昔から移動が好きなんです。言い換えれば『放浪』ですかね」。そう言って白い歯をこぼす鈴木さんだが、その放浪のスケールは常軌を逸している。彼を突き動かすのは、ただ純粋な好奇心だ。
原点は6歳の夏。両親の影響でヨットを始めると、瞬く間に虜になった。「風の力だけでどこまででも行ける。こんなに自由な乗り物はない」。自分の力だけで地球を丸ごと一周できるのは、ヨットを置いてほかにない-。「世界一周」。いつしか抱いた壮大な夢は、30年が経過した今でも、少年の頃のまっすぐな輝きを放ちながら、胸に宿り続けている。
夢を具現化するため、鈴木さんは気が遠くなるようなプロセスを「ゼロから」積み上げてきた。大学卒業後は都内で3年間サラリーマンを経験し、その後転職。社会人として培った企画力や提案力を武器に、活動資金を得るためのスポンサー集めに奔走。2018年に脱サラし、満を持して外洋セーラーデビューを果たす。
そうして19年、大西洋横断レース「ミニ・トランザット」に挑戦。現地の言葉はお世辞にも話せない。そんな状態での渡仏だったが、溢れる好奇心は抑えられなかった。23年には、乗船者2人で世界8カ所に寄港しながら世界一周をめざすレース「グローブ40」に出場。完走を果たし、3位に輝くなど実績を積んできた。
しかしその道程は常に死線と隣り合わせだ。岸から2000Km離れた洋上。漂流物(未確認浮遊物体)と突如衝突した。船体は大きく損傷したが、助けは来ない。そんな状況下、自力で応急処置を施しながら、這うように岸へ戻り、再びレースへと復帰した。「壊れないための、そして壊れた後のサバイバル能力。そういう危機管理能力が自分の武器」
ヴァンデ・グローブは1989年から始まった4年に1度開催される外洋ヨットレース。一度も港に寄らず、誰の補給も受けない。これらを一人で成し遂げる。その過酷さから、これまで完走した日本人セーラーは⽩⽯康次郎、ただ一人。航路はフランス西部を発着点に大西洋を南下し、続いて南半球を東回りに喜望峰、ルーウィン岬、ホーン岬という3大岬を巡って大西洋を北上する。総距離は約4万8千Km。日数にすると約3カ月間に及ぶ。
極限状態を生き抜くセーラーとしての強みは、「几帳面さ」に起因する。洋上にはホームセンターも無ければ、頼れる仲間もいない。だからこそ、事前にあらゆるトラブルをシミュレーションし、必要な道具をすべて決まった箱に美しく整理し詰め込む。万事徹底した準備こそが、命綱だ。
夢追う背中、見せる
2028年のヴァンデ・グローブ出場には、26年11月に開催される予選大会で大西洋横断を果たすことが最低条件だ。これらに向けて購入したヨットの費用は1億円超。自宅を売却して得た資金と、鈴木さんの熱意に共鳴した全国20人を超える出資者たちが集まり、その巨大な壁をも突破した。ヨットは全長60フィート(約18m)。舵は自動操作で帆の操作を鈴木さんが担う。
レースが始まれば、「昼と夜」の概念は消える。風の変わり目を読みながら、合間を縫って30分ほどの仮眠を繰り返す。データと、経験に裏打ちされた勘を頼りに刻一刻と変容していく気象状況を捉え、針路を定める。帆の各所につながった50本にもなるロープを繊細な感覚で微調整しながら、荒海をひた走っていく。
1日の大半を過ごすのは、船内のわずか3畳間ほどの空間。これまで洋上で過ごした最長期間は40日程度であり、今回の旅はまさに未知の領域。だが、迷いはない。「環境に体が勝手に順応してくれる」。そう言い切る。
7月からはフランスへ渡り、予選のスタートに向けた最終調整に入る。「天才じゃなくても、一歩ずつ積み重ねていけば、大きな夢を達成できる。失敗するかもしれないけれど、その姿を通して、誰かに夢を伝えたいんです」
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