鎌倉のとっておき 第183回 黒地蔵盆の夜
私の鎌倉のとっておき、それは覚園寺さんの黒地蔵盆に徒歩で訪れることです。なぜなら、この時の異世界へ誘われるような雰囲気が堪らなく好きだからです。
毎年8月10日の深夜0時から覚園寺さんで行われる深夜の縁日、黒地蔵盆はご存じでしょうか?私は毎年楽しみにしているのですが、ただ訪れるだけではありません。鎌倉駅から覚園寺さんまで歩いていくことを拘りとしています。
深夜の鎌倉は昼の喧騒とはうって変わって、若宮大路も小町通りもがらんとしています。それだけでも雰囲気の違いに圧倒されますが、そこから鶴岡八幡宮さんを東に進んでいくと、だんだん電灯も少なくなり、暗くなっていきます。
そして、しんとして虫の音が聞こえるばかりになります。人ひとりにも会いません。
気が付くとそこはぽっかりとした暗闇の異世界で、私は今どこにいるのだろうという不思議な気持ちになるのです。そして少しずつ、ぼう…と小さな明かりが見え始めます。民家の軒先に吊るされた提灯の明かりです。それがポツポツと点在し、次第に何とも言えない幻想的な雰囲気を醸し出していきます。そして、その先に漸く煌々と輝く覚園寺さんが現れ、私はやっと現実の世界に戻ってくるのです。それは、普段の鎌倉では味わえない、何とも言えない不思議な感覚であり、私にとって年に1度の鎌倉のとっておきです。
谷村 健
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