鎌倉を愛し、鎌倉で働く人たちの「ワークスタイル」に迫るこのコーナー。今回は、御成通りでフランス料理店を営むレネ・アントニーさん(36)と伊純さん(41)夫妻を紹介する。鎌倉に惚れ込んで移住したアントニーさんは「本物の料理を提供することでフランスと鎌倉の架け橋になりたい」と語る。
夫妻が営む「レネ」は昨年、ミシュランガイド横浜・川崎・湘南にも掲載されるなど、名店が揃う鎌倉でも注目を集める店の一つ。
妻の伊純さんは鎌倉出身。短大卒業後、「普通のOL」をしていたが、学生時代に栄養士の資格を取得するなど「もともと食品関係の仕事がしたいという夢があった」という。
それを実現するため、5年勤めた会社を退職。「どうせなら世界を見て来たら」という家族のアドバイスにも背中を押されて、食の本場フランスへと渡った。現地では「とにかく色々な店を食べ歩いて、ここはと思うレストランがあればその場で『働きたい』と直談判。最初は言葉も十分でなかったので、身振り手振りで頼み込みました」と笑う。
仏ノルマンディー出身のアントニーさんと伊純さんが出会うのは03年。アントニーさんが働くパリの有名店に「後輩」としてやってきたのが伊純さんだった。
初めて会った瞬間をよく覚えているという伊純さん。「店の前にいた彼がニコっと笑ってくれたのですが、不思議なことにこの時の光景を、今も写真のように鮮明に覚えているんです」と振り返る。特別な予感を抱いたのは、アントニーさんも同じだった。自然と惹かれあうようになった二人は、出会いから2年後に結婚。「実はプロポーズの言葉もなかったくらい、一緒にいることが当たり前になっていました」と二人は顔を見合わせて微笑む。
鎌倉に恋して
結婚後もフランスで暮らしていた二人だったが「鎌倉で店をやりたい」と言い出したのは意外にもアントニーさんだった。「彼女の里帰りについて鎌倉を訪れたのですが、豊かな自然の中に神社や仏閣がある。その独特の雰囲気にすっかり『恋をしてしまった』」。
07年に移住した二人は、都内のフランス料理店などで勤務した後、10年に「特にお気に入りの場所」という鶴岡八幡宮近くの雪ノ下に、カウンター席だけの小さな店をオープンさせた。
その後は「1年が3年分にも感じられるぐらいに波乱万丈の日々」(伊純さん)が待っていた。慣れない経営に奔走するなか、開店の約半年後に東日本大震災が発生。直後は停電が続いたほか、食材の仕入れもままならない日々が続いた。
それでもロウソクを灯して営業していると、その明かりに導かれるように常連客が店に集まったという。伊純さんは「誰もが不安ななか、温かいものを食べて話をしているだけでほっとできた。改めて料理のもつ力を感じました」と語る。
「本物提供したい」
店を持つ際に「鎌倉で一番の店にする」という目標を掲げた二人。昨年6月、御成町に店舗を移転し、「念願だった」というスイーツと総菜の店も併設するなど、夢は着実にかたちになろうとしている。
アントニーさんは「フランス人のシェフとして、『本物』を鎌倉の皆さんに提供したい。日本ではフランス料理が格式高いものと思われているけれど、私が出すのは昔から家庭で受け継がれて来たような気取らない料理。友人の家に遊びに来るつもりで店に来てもらえたら」と語る。
くしくも今年は、鎌倉市と南仏ニース市が姉妹都市提携を結んで50周年。それに合わせ様々なイベントを企画中だ。「料理を通してフランスと鎌倉の架け橋になりたい」。国境を越えて出会った二人の歩みは、これからも続くはずだ。
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