名コーチ引退、有終の美 綾北マーキュリーウィンズ
「結果はもちろん、全国では記録よりも記憶に残るショーをしたい」。11月の関東大会を終えたとき名コーチは語った。12月。全国での指揮台に立った彼女は、いつもに増して凛々しく、強い目力があった。演技が始まった瞬間。チームの「ラスト」に懸けた想いがびしびしと肌に突き刺さった。全国3位。昨年5位の雪辱を晴らす「有終の美」だった。
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12月16日、さいたまスーパーアリーナ。本番前の舞台袖で、いつものように中澤彩子コーチは演者一人ひとりと握手を交わした。「今日が最後」。指揮台に上がる前に、心の中でこれまでの時間を噛み締めた。最後に握手をした事務局代表の島崎裕次さんが「楽しかったですよ」と微笑むと、思わず潤んだ目に「泣いてる」と、メンバーも笑った。育児に専念するため、今季限りで引退。全国はその最後のステージだった。
5年で日本一に
綾北マーキュリーウインズと中澤コーチの歴史は13年前にさかのぼる。当時大学生だった中澤コーチは「ガングロ」姿で熱い指導を繰り広げ、無名だった同校のマーチングバンドをわずか3年で吹奏楽連盟主催の全国大会に出場を果たし、5年で初の日本一へと導いた。ストーリー性の強い展開、繊細に整えた音。保護者の大きな協力でプロ顔負けの衣装や小道具・大道具も揃い、07・08・09年には前人未到の全国3連覇を果たした。挑戦者としてさらに上を目指そうと、10年からは「一般チーム」として始動した。
「120%」のスタンス
転機は第一子の妊娠・出産。妊娠してからは、毎日練習に参加していた日々から一転、練習にも出られず、電話での指導も増えた。それでも大会シーズンになると、拡声器で大声をあげ、壇上では大きなお腹を揺らして指揮をした。全国5位の結果に終わった時、涙を流してメンバーに謝った。「信じてついてきてくれたのにごめんなさい」
引退を発表した9月、中澤コーチは「私にとって綾北は本当に特別なもの。だからこそ120%で関われないなら辞めるべきだと思い決めました」と話した。
若いチームに生まれ変わる
全国で披露した「陰陽師〜光と闇〜」は「鬼気迫る」ものがあった。力強さや妖しさなど音に演技力が込められ、登場した鬼に赤ん坊を奪われた母親が泣きすがるシーンでは会場が息をのんだ。1秒1秒を噛み締めるように8分の演技を終えたメンバーには晴れやかな笑顔があった。
今後は、卒団生らを中心にしたコーチ陣で新しい「綾北マーキュリーウインズ」として再始動する。保護者代表や事務局として10年活動を支えた島崎さんもチームを離れる。「若いチームとして生まれ変わる。今後も変わらず応援してもらいたい」と話していた。