タウンニュース鎌倉編集室では、2021年の年頭にあたり恒例の市長インタビューを行った。松尾崇市長は、PCR検査の体制整備や事業者向けの家賃補助制度など、新型コロナウイルスによって影響を受けた市民、事業者に対する取り組みについて振り返るとともに、新年度の税収が前年比26億円減る予測も明らかにし「様々な事業を見直し支出を抑えていく」と語った。(聞き手は本紙編集長、井方照雄)
――2020年は新型コロナウイルスに翻弄された1年となりました。鎌倉市としてのこれまでの対策とその効果について教えてください。
「まずは鎌倉市医師会と連携してPCR検査を受けられる体制の整備を進めました。市内では2つの病院が当初から行ってくれていたのに加えて、6月からPCR集合検査場を平日と土曜日を含めて開設しました。検査を希望して受けられるまでの時間には市町村ごとにバラつきがあるなか、不安があるときにかかりつけの病院、診療所等に行っていただければすぐに検査を受けられる環境ができたことは、市民の安心につながったと思っています。感染拡大防止については、オリジナルポスター等も作成しながら、三密の回避を呼びかけてきました」
――PCR集合検査場の利用者数と陽性者の割合は。
「昨年12月23日の時点で、675人に検査を行い、そのうち陽性は24人でした」
――中小事業者が大きな影響を受けるなか、家賃補助を国の施策に先駆けるかたちで実施しました。その効果についてはどのように捉えていますか。
市民・事業者へ独自支援策コロナ禍の取り組み語る
「家賃補助を実施する前に、市内飲食店を支援するための『鎌倉応援チケット』というクラウドファンディングを実施しましたが、その際に飲食店の厳しい状況を多く耳にしました。鎌倉は飲食店、物販店などが多いまちですので、早急な支援が必要だと考えました。結果的に1333件、総額で約3億8000万円の補助を行い、ありがたい、という声をたくさんいただきました。一方で一定の基準を設けたことで補助を受けられない方もいて、厳しいご意見をいただいたことも事実です。限られた財源の中、どこかで『線引き』が必要でしたが、支給できなかった方には大変申し訳ないという気持ちです」
――国の特別給付金の対象にならなかった新生児や胎児を対象に、10万円の給付も行いました。
「すでに命を授かりながら、基準日の後に生まれたことで国の給付金の対象にならなかったお子さんを対象に給付しました。また、感染に気を配りながら出産し、外にもなかなか出づらいなかで子育てをすることは本当に大変ですので、保護者の経済的・心理的な支援としても必要と考え、719件7190万円を支給することができました」
観光苦境も「近接」に活路
――観光や商業にはどのような影響が出ていますか。またどのような対策をとっていきますか。
「観光客数の推移についてですが、市の有料施設の入場者数で見ると6月から7月は前年比78%減となりました。それが8月、9月は54%減、10月には3・7%減ということでほぼ回復という状況でした。しかし11月、12月は再び落ち込むと予想されます。また9月に観光客のアンケート調査を行ったところ、興味深いデータがとれました。観光客のうち『関東圏外』からの割合が前年の23・3%から3・9%へと大幅に減りました。『神奈川県内』と回答した方も40%から33・8%になる一方、『東京都内』の人が26・7%から32・5%へと微増しました。一番大きかったのが市民の割合が1・3%から14・3%へと増加したことです。市民の方が観光しているということがわかるデータだと思いますので、市民が地元を楽しめるような情報提供をしていきたいと思います。商工業について市独自のデータはありませんが、GDPは4〜6月が21・8%減、7〜9月が5%増で、鎌倉も大きな違いはないという見解です。鎌倉の飲食店、小売店等に対しては12月15日からスタートした『縁むすびカード』の活用を促進することで支援につなげるとともに、国や県の融資や補助金活用の情報を提供し、この状況を乗り切っていただきたいと考えています」
「GIGAスクール」が加速
――休校が長く続くなどコロナ禍は教育現場にも大きな影響がありました。そうしたなかで、児童・生徒に1人1台のタブレット端末を配付するGIGAスクールが注目されました。鎌倉市での進捗を教えてください。
「教育委員会では、コロナ禍においてオンラインホームルームという、パソコン等がない家庭にタブレットを配付して、朝の会等で児童の様子を確認するという事業を実施しました。実際にやれることは限られていましたが、学校の先生からはいい経験になったと聞いていまして、GIGAスクール構想を進めるための助走になったのではないかと思っています。GIGAスクール構想自体は、教育委員会でもコロナ前から積極的に進めてきたところですが、コロナ禍を受けてさらに前倒ししようと取り組んでいます。今年3月までに全市立小・中学校の生徒に1人1台タブレットを配付することが決まりました」
――どのようなことを期待しますか。
「鎌倉には200人を超える不登校の子どもたちがいます。そうした子どもたち一人ひとりの特性に合わせて、誰一人とり残すことなく学びが受けられる環境を提供していくためにも重要なツールになっていくと思っています。昨年8月に就任した岩岡教育長を先頭に、教育委員会が『ワンチーム』となって取り組んでくれていますので、子どもたちが前向きに学習に取り組めるような環境づくりを続けていきます」
高まった「共生」の重要性
――コロナ禍を受けた市役所での取り組みは。
「鎌倉市としては以前からテレワーク体制の整備を進めていましたが、コロナによって一気に進んでいます。当初は管理職だけでしたが、機器の入れ替えなども進めていて、まだ実証の段階ではありますが、一般職員にも対象を広げ、希望する課や職員が積極的にテレワークをしています。ただ役所の仕事では全てテレワークになじむものではありません。窓口で対応したり電話の問い合わせを受けたり、現場対応も多いので、週に2日とか3日から始めています。今後はより加速させたいと考えています」
――市財政に影響は。
「新年度は2020年度と比べて約26億円の減収予測をしていて、リーマンショックと同等の大きな減収になります。対策としては、各事業の優先度、重要度についてさらに精査し、見直し、縮小、統廃合等を進めながら支出を抑えていきます」
――事業を見直す際の優先順位や基準は。
「事業分野で大きく分けていませんが、より細かい部分や、突っ込んだ中身の見直しを進めています。それを一つひとつ積み上げています」
――コロナ禍を受けて、目指すまちづくりに変化はありましたか。
「これまで『働くまち鎌倉』『住みたい住み続けたいまち』を掲げて取り組んできました。コロナ禍の前から官民共同でテレワークの研究に取り組んでいましたが以前は『できたらいいよね』程度の受け止められ方だったものが、一気に進んでいっているという感覚です。そうしたなか、鎌倉のような海があって山があって神社仏閣があるという環境で暮らすことが、人生の豊かさにつながっていくと考える方が増えていると感じています。我々が進めてきた方向性は、コロナで大きく変わるのではなくてむしろ早く進んでいると感じています。また、共生社会も市の施策の柱の一つですけれども、いわゆる物質的な豊かさから精神的な豊かさへ、環境を人が制御していくことから共生していくことへ、という価値観がより重要になってきていると感じています」
1月8日号に第2弾を掲載。市役所本庁舎の移転や村岡新駅、大河ドラマへの取り組みなどについて聞きました。
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