大磯町に生まれ、明治期にハワイへ渡って日本人移民の労働環境改善に奔走する中、リンチにより非業の最期を遂げた後藤濶。事件の歴史的背景や近年の米国における後藤再評価の動きに迫る『ハワイ日系人の歴史的変遷 アメリカから蘇る「英雄」後藤濶』が、このほど彩流社から出版された。ハワイ日系人史を研究する名古屋大学講師の堀江里香さん=人物風土記で紹介=が、米国や大磯での調査・研究の成果をまとめた。
沈黙から英雄へ
後藤濶は国府村(現在の大磯町)出身。1885年に官約移民でハワイへ渡り、サトウキビ農場で働いた後に経営した商店で成功を収めた。農場で過酷な労働を強いられていた日本人労働者の権利を守る活動に尽力し、それを敵対視した農場経営者らによるリンチで28歳の若さで命を落とした。ハワイでは後藤について長らく語られることのない「沈黙」の時代が続いたが、近年になり事件をもとにした戯曲の上演や漫画が出版され、後藤を「英雄」と位置付けるドキュメンタリー映画の制作が進むなど再評価の動きがある。
堀さんは2001年にハワイを訪れた際、後藤濶を顕彰した記念碑に出会った。碑文から1994年に制作されたことを知り「なぜ1世紀を経て後藤の記憶が掘り起こされ、顕彰されることになったのか」と調査を始めたという。この本は、堀さんが米国や大磯で収集した様々な新史料と100人を超える関係者へのインタビューを基に、博士論文を大幅に加筆修正したもの。後藤濶リンチ事件が起きた歴史的背景や近年の米国における再評価の過程などの検証、またそれらを通じて米国における日系人の歴史的変遷や多文化社会に生きた人々の衝突と融和の歴史を書き著している。「写真を多く掲載し、米国の日系人史に詳しくない人にも読みやすいように著しました。大磯出身の後藤濶をめぐる物語を、ぜひ紐解いていただければ」と堀さん。同書は書店や通販サイトなどで税込3960円で取り扱っている。
大磯協力者も絶賛
大磯町の現地協力者の一人で、後藤濶の大磯墓碑発見や碑文の解読などに協力した加藤喜規さんは「新史料と論考から後藤濶の歩みが生きいきと蘇り、大磯での調査研究についても記述されている」と喜び、堀さんへの感謝と祝辞を寄せた。
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