横須賀市公立中学校
修学旅行の現在地
定番主力に個性化・多様化も

平和記念公園で式典を行う神明中生徒らと被爆ピアノ（左）

　横須賀市内の公立中学校は修学旅行シーズンを迎えている。全23校の行き先を調べた結果、これまでの定番である「京都・奈良」のほか「東北方面」や「広島」などへ行く学校があることが分かった。行き先だけでなく、現地での学習内容も多様化しており、「総合的な学習」等を紐づけ、普段の授業では得られない体験等を重視している学校も多く存在しているようだ。

　本紙では市立中学校23校の修学旅行先を調査。従来とは異なる行き先を選定する学校も増えている中、約半数が京都・奈良を選択し、次いで４校が岩手県を目的地に据えていた。

　市教育委員会によると、中学校の修学旅行先は各学校の判断に委ねられているという。そのため、各学校が重視する学習が旅行先の選定や内容に関わることも多い。

　以下では市内中学校の旅行先や学習内容について紹介していく。

体験型

　「ふれあい」と「おもてなし」をテーマにして新潟県十日町市で体験型の学習を行ったのは田浦中。以前は滋賀県の農家で民泊を行っていたが、コロナ禍で受け入れ地域の確保が困難に。宿泊を伴わない農業体験という枠組みで同市が候補に挙がった。

　現地では班ごとに各地区の農家で収穫の手伝いや食事などを共にして、田舎での暮らしを体験した。旅行前から現地の人たちとオンラインで事前学習を重ね、今後も事後学習として学びの成果を発表する機会を持つという。

　ユニークなのは宿泊先での学びだ。ホテルではテーブルマナー研修を兼ねたディナーを堪能し、一流のおもてなしを体験。最終日には合唱や群読でホテルの職員へ感謝の気持ちを表現した。

平和学習

　神明中では平和教育の一環として22年度から広島県を修学旅行先に設定している。

　事前学習では被爆地としての広島の歴史を学び、一人一人が千羽鶴を作成。当日は降雨に見舞われながらも同校主催の「記念式典」を平和記念公園で開催。広島市の支援もあり、原子爆弾が投下された中で奇跡的に焼け残った「被爆ピアノ」が式典に貸し出された。生徒はそのピアノの伴奏に合わせ合唱や群読を行い戦争の悲惨さや「いま私たちにできること」に思いを巡らせた。

まちづくり

　地域課題に対する関心を高める「研修旅行」を実施したのは大津中。「地域の資源を生かしたこれからのまちづくり」をテーマに設定し、福島県裏磐梯・会津若松方面を舞台に過疎化の対策や地域のまちづくりを学んだ。グループごとに分かれて農園やワイナリー、観光協議会などで仕事体験やまちづくりに関する講話も受けた。

　同校は「総合的な学習」で横須賀の地域資源を生かして「事業を通じた社会貢献」のあり方を考えるカリキュラムを導入しており、今後は起業へ向けた資金調達を想定して、模擬の事業計画を作成し提案する実戦型の学びを展開する。

定番

　従来とは異なる旅行先を設定している学校が増えている中、定番の京都や奈良を選択する学校も多い。ある中学教諭は「歴史の授業に出てくる仏像や建築を実際に体感できる」と校内での学習をより主体的にする効果に期待。歴史の中で培われてきた街並みの保全について学ぶ機会にもなるという。

　かつての都があり、日本古来の文化が集結する地では歴史、美術、古典など普段の学習につながる学びが得られるため、今後も修学旅行先の定番として認識し続けられそうだ。

他市の状況

　鎌倉市の市立中学校でも、約半数を占める「飛騨高山方面」のほか岩手県や長野県を旅行先にする学校がある。岩手県は東日本大震災の被災地であり、防災をテーマにしたワークショップや11年に住民が実際に避難したルートの見学を行った。

　長野県で農業体験や民泊を行った学校もあり、「体験型」「ふれあい」はこちらでもキーワードになっているようだ。

学びの内容に特色

　中学校の修学旅行を取りまとめる旅行代理店担当者によると、全国的に修学旅行の行き先は多様化しているという。

　各学校により学習の目的が設定されており、代理店はそれに適した旅行先を提案する場合もあるため、ニーズを満たしたツアープランの造成などに取り組んでいる。

数年で大きく変化

　調査を行う中で、コロナ禍が修学旅行計画に大きな影響を及ぼしたことが改めて感じた。感染拡大を防ぐため、民泊を伴う旅行プランの変更を余儀なくされた中には新たな方向性を見出した学校もあるほか、小学校の修学旅行が中止になった関係から、教員の計らいにより当時訪れるはずだった栃木県の日光市を計画に組み込んだ学校も存在する。

　時代の流れやニーズによって変わるものと変わらないもの。学びを提供する者の意図はそれぞれだが、生徒にとっては一度きりの修学旅行。学びと思い出作りが両立する機会であることが求められている。