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藤沢 人物風土記

公開日:2026.06.12

短編映画『名店にて』を制作する監督の一人 藤本 東子さん 藤沢市在住

  • 藤本 東子さん (写真1)

「日常のおとぎ話」映像に

 ○…タイル外壁と迷路のように入り組む空間、中庭に出るとすっくと伸びるハゼノキの葉の間から漏れるまだら陽光が差し込む。昭和の面影を色濃く残すフジサワ名店ビル。開業から60年が経ち建物のあちこちにガタがきている。建て替えはまぎれもない事実で、市民ら思い出の地に一旦のエンドロールが流れようとする場面だ。ならば「記憶を映像に残そう」と映画づくりを企てた。「名店ビルは自宅の延長線だから」と笑みをこぼす。

 ○…実家は藤沢駅前。かつてあったオデオン座やフジサワ中央、みゆき座といった映画館は行きつけだった。幼少期はディズニー映画『アラジン』に目を奪われた。「あの時の面白いという衝撃がすべての始まり」とフィルムのように過去をコマ送りする。「映画のような生活がしたい」と憧れを抱き、高校卒業後に渡米。図面を眺めるのが好きで建築を専攻したが、暗室にこもって写真を焼き続けるなど、凝り性なアーティスト気質は隠せなかった。

 ○…じっと自身を見つめ直した時、浮かんだのは映画だった。映画専攻の学生によるプロジェクトやインターンシップなどに参加。自主制作で独自のスタイルを確立し、数本の作品を手掛けた。コロナ禍も、本気でその道へ進むきっかけになった。大正時代を舞台にした2022年制作の短編映画『おくさま』は海外の映画祭で最優秀フィクション賞を受賞するなど称賛も浴びた。

 ○…「何かを始めると夢中になるけれど、飽きるのも早い」と自嘲するが、映画への愛だけは別格だ。カメラを片手にフロアを駆け巡り、心に刻まれた風景をくっきりと浮かび上がらせていく。「日常のおとぎ話にするつもり」。そこに生きた人々の息づかいまで身近に感じさせるために。

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