早大名誉教授で長年「源氏物語」の研究・教育に取り組んでいる 中野 幸一さん 逗子市逗子在住 79歳
源氏物語一筋に40年
○…千年にも渡る間読み継がれてきた古典文学の傑作「源氏物語」。平安の世に描かれた雅な世界と壮大な恋愛模様。古今を問わず多くの文人に愛されてきた大作に早大文学部に在学していた若き日の自身も虜になった。学位の取得や卒業論文のテーマは日本最古の長編物語として知られる「うつほ物語」。以降は教壇に立つ傍ら、およそ40年間に渡って源氏物語の研究一筋に取り組んできた。
○…54帖にも及ぶ長編小説。特有の言い回しと幾重にも広がる登場人物に「光源氏がまだ若いころの『須磨帰り』あたりで挫折してしまう人が多い。だからプレイボーイ物語と誤解されがちなんです」と笑顔を覗かせる。しかし自身曰く人間の真髄を描き出しているのが源氏物語。「愛は人間の永久のテーマですが、源氏物語にはその裏にある罪と死、宗教が多面的に描かれている。ただの色恋だけの話ではないんです」。一番好きなのは紫の上の死が描かれた「御法(みのり)の巻」。萩の上の露が落ちていくように―。「現代の小説のように生々しく書かないんですね。その辺りに紫式部という女性の才覚が伺える」。
○…趣味は古典籍収集。老舗の古本屋に足を運んでは少しずつ写本や版本を集めてきた。40年に渡って集めた資料の数は実に2千点以上。中には歴史的価値の高いものも多く、復元模写「伴大納言絵巻」は国宝に欠損している人物や群集が違和感なく描かれているとして高い注目を集めた。「自分が持っていたものが史料価値が高いものだったりする。そこがコレクションの面白いところ」。
○…逗子市内の女性がつくる「源氏物語を読む会」や市内で開かれる文化講演会の講師も長年務める。「勤めている時は地域で何できなかったから恩返しのようなものかな」。本文に触れることでこそ分かる古典や日本語の良さ。「わずかではありますが、今後も地域の文化を支える協力ができれば」と温和な笑みで結んだ。
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