かつて藤沢駅周辺は映画文化の香る街だった。だが、時代の移り変わりとともに10館近くあった映画館は2010年までに全てが姿を消した。「シネコン全盛期に、映画館は時代遅れかもしれない。それでも消えゆく風景を残したい」。そんな思いで一風変わったスタイルで店を営んでいる人がいる。「映画と本とパンの店 シネコヤ」の竹中翔子さん(34)だ。
鵠沼海岸商店街の一角。扉を開けるとショーウインドーには手作りのパン、奥の貸本室には映画にまつわる本が整然と並ぶ。来店者は軽食や読書を楽しんだり、店主おすすめの映画に見入ったり―。
きっかけは07年、老舗映画館の「藤沢オデヲン座」が閉館して。学生時代、市内の映画館でアルバイトしていた竹中さん。娯楽が多様化する中で映画館が苦境という実感はあったが、「この街の規模でも立ち行かないのか」と衝撃を受けた。同時に、街に根付いていた映画の灯が消えていくようで、心に穴が空いたかのような寂しさを感じたのを、今でも覚えている。
その後「映画館のある街の風景を残そう」と一念発起。NPO職員として働く傍ら、ボランティアで映画上映会などを企画し、構想を温めてきた。
とは言え、シネコンですら商業施設と併設されている時代に映画館の経営は難しい。ましてや自分は素人だ。「従来の映画館とは違う方法で、新しいものが生み出せたら」
そうしてたどり着いたのが、貸本屋を主軸にした運営方法。かつて写真館だった店舗を改装し、インターネット上で寄付を募る「クラウドファンディング」などを活用しながら2年前、シネコヤをオープンさせた。
往年のレトロ感漂う内装はなるべくそのままに。2階のメインスタジオは防音工事を施し、シアタールームに変えた。お勧めの本とテーマを合わせた映画を月替わりで紹介し、来店者は1500円を支払えば1日読書が楽しめ、映画も1本選べる。
経営が安定しているとは言い難いが、現在はリピーターが増え、週末には遠方からも人が訪れるようになった。今後は映画館に替わる場所としてモデルケースになれるよう、経営を軌道に乗せることが目標だ。
「まだまだ数は少ないけど、先行して成功させることが自分たちの役割だと思うんです」
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