「かまくら春秋社」の代表で、このほど神奈川文化賞を受賞した 伊藤 玄二郎さん 藤沢市在住 75歳
鎌倉で文化発信、半世紀
○…1970年に設立した「かまくら春秋社」での出版活動や多岐にわたる教育・社会貢献活動が評価され、文化の発展に功績のあった個人・団体に贈られる「神奈川文化賞」を受賞した。「出版は一人では完結しない仕事。作家さんや協賛企業、何より読者がいたからこそ、ここまでくることができた。支えてくれた全ての人に感謝したい」と微笑む。
○…大船で生まれ育った。大学卒業後、出版社に入社。鎌倉出身という理由で多くの「鎌倉文士」を担当した。なかでも「人生の師」と仰いでいたのが里見弴だ。「鎌倉で雑誌を作ってみないか」という里見の言葉を受けて、月刊誌「かまくら春秋」を創刊したのは25歳の時。「若かったし失敗することは考えなかった」と笑って当時を振り返る。「自分が世に出したものを読み、共鳴してくれる人がいる。その達成感を持ち続けてこられたことが幸せですね」と噛みしめるように話す。
○…教育者としても様々な足跡を残してきた。関東学院大学で教鞭をとり、東日本大震災後は学生とともに被災地支援活動「サンタ・プロジェクト」に取り組んだ。ゼミ生と立ち上げた建長寺での「親と子の土曜朗読会」は来年5月に800回を迎える。「学生が積極的にサポートしてくれたからこそ息の長い活動になった」と目を細める。現在は通信制大学の星槎大学でも教授を務め、比較文化論やメディア論を教える。
○…出版を取り巻く環境は50年で大きく変わったが、その将来について悲観はしていないという。「書籍を通じて得た体験、経験は宝物としてずっとその人のなかにあり続ける。それを伝える活字はまさに心の原風景。よい作品を出せば、必要とする人は必ずいます」。強い信念を胸に、鎌倉から文化を発信し続ける。