市販のパンの味に慣れた人は少し驚くかもしれない。風味、口当たり、噛んでいくと増す旨み…。「引き算」でないと生み出せないパンという。
そのパンは松木の工場直売店「サラブレッドハウス」で売られている。
「サラ」のパンは秋田県の白神山地のブナ原生林から発見された「白神こだま酵母」を使っている。その酵母と北海道産小麦、国産きび砂糖、天然塩。これらを基本に油脂などは使用せず「自然のおいしさ」を追求。添加物や保存料など余分な材料も加えない。同店ではこれを「引き算のパンづくり」と説明する。
白神こだま酵母は1998年に発見され新聞報道で全国に知られた。「サラ」の創始者、大塚せつ子さんは酵母を譲ってもらおうと、所有する現地の研究所に打診。しかし「県外不出の貴重財産」と断られた。「どうしてもこの酵母で作りたい」。大塚さんはその後、自身のパンを研究所に送り熱意をアピールした。
思いは伝わり研究所から酵母が届いた。その後1年以上試作を繰り返し、現在直売店で販売されている「納得のパン」(大塚さん)を完成させた。この情熱的なストーリーは当時、日刊紙でも取り上げられたほどだ。
世界自然遺産にも登録されている白神山地は200万年前にできたと言われている。そこで生き残ってきた白神こだま酵母。生命力は極めて強い。小麦粉に少しの塩と砂糖だけ。酵母の力のおかげで、それだけでふんわりやわらかなパンを焼きあげることができる。現在「サラ」のパンは宅配サービス等で全国展開されており、多くのファンを持つ。知る人ぞ知る市内の直売店には今日も行列が生まれている。