2021年の干支「丑」―。温厚ながら少し臆病な牛に魅せられている人がいる。下柚木在住の牛専門の写真家、高田千鶴さん(41)がその人。高田さんはこれまでに牛写真集の出版や全国から作家を募り、「牛展」を開催するなど、牛の魅力を発信している。
「まん丸の目がすごく可愛い。大らかで心地いい空気感に癒される」。牛の頭や首筋をなでながらシャッターを切る高田さん。
高田さんは全国の牧場を訪れ、撮影を行っている。訪れた牧場は100カ所以上、写真は10万枚を超える。それでも納得のいくものは数十点だとか。牛が反芻するタイミングで口角が上がる「笑う瞬間」を狙いたいという高田さん。「見た人が牛に逢いたくなるような写真」を捉える。
きっかけは、農業高校で酪農を学んでいたとき。産まれたての雄牛の「生きていた証を残そう」と撮り始めた。
忘れられない出来事がある。2週間後に肉牛として解体場へ売られる雄牛「なずな丸」の世話を先輩から引き継いだ。雄牛は気性が荒かったが、高田さんが蹄の手入れなど丁寧に世話すると、心を許してくれた。
最終日、初めて聞くような鳴き声を上げるなずな丸の頬を撫でると、ピタリと止んだ。「悟ったような顔は今も鮮明に残る。牛肉を食べることに葛藤はあったけど、残さず食べることを大切にしたい。生きているときは心を持った動物だったということを写真を通じて伝えられれば」
「丑」年の今年、4年ぶりに牛展の開催を目指し企画中。「せっかくのチャンス。コロナ禍でも楽しめるものができるよう、準備中。『牛にひかれて善光寺参り』の諺のように牛を追い続け、思わぬ楽しいことに出会いたいかな」と笑う。
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