―連載小説・八王子空襲―キミ達の青い空 第6回 作者/前野 博
(前回からのつづき)
キミは父親を十七歳の時に亡くした。妹が三人、兄が一人、母親は家事をするので手一杯、兄とキミとで床屋を続け、何とか一家の生活を支えていた。
その兄に召集令状が来た。兄がいたから、何とか床屋の仕事をこなしてきた。一人で切り盛りしなければいけないと思うと、キミは目の前が暗くなった。
「姉ちゃん、わたしも手伝うから、頑張ろうね!」
妹にそう言われても、何の励みにも手助けにもならなかった。でも、働かなくては、食べてはいけない。昔からの客は、娘たちに同情して、散髪に来てくれた。客の方も、一、二度は、下手でも我慢してくれるが、限界は目に見えていた。
そんな時、父親の親友であった、山村理容店の主人が、大野理髪店に援助の手を差し伸べてくれた。父親が死んだ時も、何かと手助けしてくれた。今度は、その時以上に、キミを助けてくれたのであった。
「由江ちゃんが、手伝いに来てくれるの?」
「そうよ、山村の旦那が、大野の床屋へ、暫く行って、手伝ってこいと言うのよ」
キミは、父親の存命中、山村理容店によく連れて行かれた。その頃から、由江は山村理容店に見習い住み込みとして働いていた。由江とキミはすぐに仲良しになった。理容師としては、他人の飯を食べて、修業を積んだ由江の方が、キミより上であり、一人前であった。
「由江ちゃん、ありがとうね! 山村の旦那には、本当に感謝していますよ」
キミの母親は、これで何とかやっていけると、胸を撫でおろした。由江は、山村理容店から大野理髪店に通って働いた。由江の給料は、山村理容店から出ていた。山村は若い時に、キミの父親に生命に関わることで助けてもらったことがあった。山村は、その恩を忘れなかった。
キミの兄が戦地ニューギニアから、最後の病院船に乗せられて日本に帰って来たのは、昭和十八年のことであった。
〈つづく〉
◇このコーナーでは、揺籃社(追分町)から出版された前野博著「キミ達の青い空」を不定期連載しています。
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