神奈川県全域・東京多摩地域の地域情報紙

  • search
  • LINE
  • MailBan
  • X
  • Facebook
  • RSS

20年前から活動 脱サラで脱原発 御園・坂口信夫さん(1938-2001)の記憶

社会

公開:2012年3月8日

  • LINE
  • hatena

まっすぐ無邪気に生涯を捧ぐ

 「今年も殆んど週1回のペースで事故が起きていますが、その中でも極めつけは1989年1月6日福島第2原発3号炉で起きた事故です」。1989年12月20日と記された、『ちょっとまってつうしんNo.1』には、そう書かれている。月1回、100部ほど配布していた『つうしん』の発行人は、ある時は一人で福島第二原発のゲート前で一週間の抗議の座り込みを行い、ある時は国会への請願に必要な署名集めに奔走した。”脱原発”--。今から20数年以上前に、坂口信夫さん(享年62/南区御園、=写真右)はこの街から、放射能との決別を真剣に訴えていた。

 「何にもまっすぐで、子どもみたいに無邪気な人でした」。現在も同所に住む、坂口さんの妻・初江さん(73、=写真左)は長年連れ添った夫のことを振り返る。

 きっかけは一冊の書物、広瀬隆氏の『危険な話』(1987)。チェルノブイリの事故を克明に描いたノンフィクションだ。その頃はまさに、青森県六ヶ所村に核燃料再処理工場を建設しようという情勢があり、「放射能が農漁業に影響を与えるのではないか」という危惧が坂口さんを脱原発行動に駆り立てた。そしてその本と出会った一年後には、およそ30年勤続した住友3Mを退社。自分の会社が原発建設に手を貸していることがどうしても許せなかったという。長男がちょうど大学に入学し、子育てが一段落。初江さんは月日の経つ早さを感じた。「こんな短い人生なんだから、お父さん、好きなことをやりなさいよ」。そう信夫さんの背中を押し、今度は初江さん自身が代わりに働きに出ることを決めた。

 当時の『つうしん』からは、「脱原発一千万人署名」という言葉が数多く散見される。この署名運動は、脱原発法案を制定するために、全国各地にいる同様の志を持つ人たちが、直接請願を行なうためのもの。機関紙の発行母体であり、自身が代表を務めた団体「脱原発相模ネットワーク」は、この署名活動を推進するために、近隣の約50の草の根グループや有志の人たちによって結成された。街頭での署名活動のほかにも、知識を交換し合う勉強会の場を、月1回設けていた。

 また、信夫さん自身が家庭で重視していたのは節電。「『電気はこまめに消す』『電気ジャーではなくて圧力釜で』。よく言ってましたね」と、初江さんは懐かしむ。

 当時、坂口家では1ヶ月に1回、一切の電気を使用しない日を設定していた。夜はろうそくで生活。”みんなが電気を使わなければ、原発がなくても十分”という思想に基づいての行動だった。

 『つうしん』の最後となったのは、1998年9月1日のNo.82。「1994年末頃から、例会が低調になり、以来今日に至るまで、会は休眠状態となってしまいました」と、挨拶文が記されている。会員からの投稿を掲載していたが、それも殆どなくなり、ひとりで誌面作りに勤しむ時間が多くなった。また、反社会的な活動をしていると、反感を持つ人も少なくなかった。「主人の弟とは、実際に原発のことで仲たがいしていますから」。孤独な活動、周囲との広がっていく溝―。坂口さんを受け入れる土壌は当時、社会の中には整っていなかった。2001年3月、大腸ガンで逝去する。

 「まさかの原発事故…。御園のこの近所では『坂口さんのことを思い出した』という人がけっこういたよ」「あの時代から、脱原発を本気で訴えていた坂口さんのような人が、この街にいたことを誇りに思いました」。信夫さんの生前の活動は、近所の人々にそんなことを想起させた。きょう3月8日は、夫婦2人にとって48回目の結婚記念日。遺影の中の信夫さんには「『原発はよくない』。お父さんの話していた通りだったね」と伝えるつもりだ。
 

第1号の『ちょっとまってつうしん』
第1号の『ちょっとまってつうしん』

さがみはら南区版のトップニュース最新6

1市5町に「消滅可能性」

人口戦略会議

1市5町に「消滅可能性」

相模原「中間に位置付け」

5月16日

保育所申込みが過去最多

相模原市

保育所申込みが過去最多

待機児童は南区に7人

5月16日

ホコ天で街に賑わいを

サウザンロード商店街

ホコ天で街に賑わいを

1日限定 地元商店出店も

5月9日

22地区を「楽しく学んで」

市印刷広告協同組合

22地区を「楽しく学んで」

ゲーム開発で出前授業

5月9日

酒楽祭を初開催

相模大野北口商店会

酒楽祭を初開催

コリドーで5月26日

5月2日

障害者へ「合理的配慮」

障害者へ「合理的配慮」

民間義務化も周知に課題

5月2日

あっとほーむデスク

  • 4月6日0:00更新

  • 1月19日0:00更新

  • 12月1日0:00更新

さがみはら南区版のあっとほーむデスク一覧へ

バックナンバー最新号:2024年5月16日号

もっと見る

閉じる

お問い合わせ

外部リンク

Twitter

Facebook