多摩美術大学情報デザイン学科2年の木下望有(みゆう)さん(24)がこのほど、自殺予防の啓発を目的とした「いのち支える動画コンテスト2023」の「セルフケア・SOS部門」で優秀賞を獲得した。木下さんは受賞を受け、「自分も悩みが絶えない若者の一人。誰もが抱える不安を表現することで、誰かの支えになれたら」と喜びを語った。
同コンテストを主催したのは、(一社)いのち支える自殺対策推進センター(千代田区)。今年初めて学生を対象に作品を募集し、9月10日から16日に設けられた自殺予防週間に合わせて優秀賞4作品を発表した。
主催者によると、学生を対象としたのは、若者の自殺が深刻化する中で当事者目線で自殺問題を「自分ごと」化してもらいたいという思いから。厚生労働省や文部科学省、こども家庭庁などが後援。「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現へ〜いまあなたが伝えたいこと〜」をテーマに、今年4月に絵コンテによるショートムービーのアイデアを募集した。応募は138作品で、1次審査で10作品に絞られ、2次審査を経て4作品の受賞が決まった。受賞作はその後、学生自身が映像化した。
アニメならでは「文字」活かし
セルフケア・SOS部門で優秀賞を受賞したのは、木下さんのアニメーション動画『伝わるよ。』。主人公は日常生活を送る中で、人間関係や将来など、不安な思いが「文字」となって腕の皮膚を駆け巡って行く。消えない悩みに囚われるが、最後は話を聞いてくれる友人が現れ、救われるまでを一人称目線で描いた。悩みに追い詰められる心理描写を、アニメーションだからこそできる表現方法で表した力作だ。
在籍する情報デザイン学科ではメディア芸術コースを専攻しており、アニメーションの制作経験もあった木下さん。5月頃コンテストのことを知り、美大受験期に悩みを抱えていた経験から応募を考えたが、迷いがあり、すぐに作品づくりには至らなかった。「ただずっと頭の奥に残っていて、最後の最後で出品を決めた」と振り返る。受賞作に決まった後、「夏休みをアニメづくりに全部費やした」という。
作画には、実際に撮影した実写を元に作画する「ロトスコープ」という手法を採用した。自分の服にカメラを付け、友人に相手役をしてもらい、「自分目線」で記録。「すべての線を描き起こすのではなく、どこまで線化するかで、手描きの温かみが変わってくる」とこだわった点を説明する。受賞を受け、「自分の気持ちを打ち明けるのは勇気がいるが、とても大事なこと」と相談する大切さを呼びかけた。
同部門では他に、筑波大大学院生が優秀賞を受賞。「ゲートキーパー部門」では佐賀県の高校1年生、金沢工業大学の大学院生2人組が優秀賞を受賞した。
木下さんをはじめ、他の受賞作の動画は同法人のホームページで公開されている。
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