秋の防火活動に取り組む女性防火クラブの委員長を務める 山本加代子さん 一之宮在住 59歳
「当たり前」から一歩下がって
○…11月中旬になると、毎年きまって消防署員と一緒に一人暮らしの家を訪ね、火への備えを呼びかける。女性防火クラブは「家庭にいる人が防災の知識を学んで広めよう」と先輩たちが25年前に立ち上げ、その後を引き継いだ。会って話すと、錆びて底が抜けそうな古い消火器を持っている人や、火災報知器の設置義務を知らない人に出会う。原動力は「少しでも知ってもらえたら」という思い。まぶたを閉じれば小さい頃に近所で見た住宅火災の光景、恐ろしい火柱が浮かぶ。
○…旭が丘中を経て高校の頃から「答えがはっきり出る」数学にのめりこんだ。大学でプログラミングを専攻したのも「間違えたら動かない」潔さに惹かれたから。当時はパソコン(パーソナル)が世に出る前のオフコン(オフィス)が主流の時代。就職先では冷蔵庫よりも大きなコンピュータを相手に仕事をこなした。職場で隣に座っていた厳しい先輩が、のちに夫となった正紀さん。「マメで優しくて面白くて、本当に良い人なんです」。フフと思い出し笑いがこみ上げる。家族で楽しむ紅茶のひと時が幸せだ。
○…子育て中は消防車好きの息子を連れて消防署に出かけた。ロープやハシゴを全力で行き来する訓練とともに「遅いぞ」と檄が飛び交う。火災現場で命を張り、特に感謝の言葉もかけられない、ひたむきな姿にふと「彼らが当たり前の存在でいいのか」と感じた。彼らを支えたい一心で防火クラブに加わり、制服に袖を通したのが10年前。50人ほどのメンバーは高齢化しつつあるが、若い子育て世代に加わってもらうのは難しい。「クラブが大きくならなくても、防災への関心が高まってくれれば」。笑顔の口元は一文字になっていた。
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