南区大野台出身の竹内早希子さん(41)が初めて執筆した『奇跡の醤(ひしお)-陸前高田の老舗醤油蔵 八木澤商店 再生の物語』(祥伝社刊・1700円+税)。200年以上の歴史を持つ醤油蔵が、未曽有の災害から復興していく道のりを丁寧に描いたノンフィクションで、11月10日の発行以降、各紙の書評で取り上げられるなど早くも話題となっている。
現在は都内で暮らす竹内さん。小学生から大学卒業して就職するまで、両親と大野台に住んでいた。就職先は有機農産物宅配会社。そこで働いていた2004年、陸前高田市の老舗醤油蔵「八木澤商店」と出会い、関わりを持った。
2011年3月11日、竹内さんは都内で地震に遭遇した。首都圏も混乱に陥る中、テレビは連日、津波の映像や福島第一原発に関する報道を流し、被災地の状況を伝えた。日が経つにつれ、気にかかったのが八木澤商店のこと。震災から10日近く経って、ようやく1名をのぞく八木澤商店の人々の無事を知った。仕事を通じて再建への歩みを見つめるうちに「同社が復興に向かう道のりを子どもたちに伝えたい」という思いが募っていった。
当時は一介の会社員だった竹内さんだが、「取材をさせてほしい」という熱い思いを込めた手紙を八木澤商店に送った。「ようやくつながった電話の相手は9代目の河野通洋社長で。ものすごく多忙なはずなのに『うちはいつでもウェルカムです!』と言ってくださって」。12年3月に東京で通洋氏と会い感銘を受けると、翌4月には陸前高田市を訪問。長きにわたる取材が始まった。
経験を糧に
八木澤商店は東日本大震災で社屋を流され、醤油を作る上で命ともいえるもろみや杉桶、製造設備のすべてを失った。被害総額は2億円以上にのぼるという。
著書では、そんなマイナスのスタートから現在に至るまで、河野通洋社長を中心とした同商店の歩みが、ち密な取材をもとにつづられていく。
「老舗醤油蔵を再建させた若き経営者」。そんな取り上げられ方をすることの多い河野社長だが、取材を進めるなかで多く出てきたのが、支えてくれた人の名前だったという。中小企業同友会のメンバー、取引先、地域の先輩、友人、家族…、竹内さんは一人ひとりに会い、話を聞いた。「ライターでもなく、本になるかも分からない。そんな私の取材に、皆さんが時間のある限り、真剣に向かい合ってくれた」と振り返る。
気がつけば、復興の足跡というだけでなく、会社で働くことの意義、地方の中小企業の在り方、地域とのつながりなど、内容も広がっていった。「私たちの経験を、全ての人に活かしてほしい」。取材した人々からは、そんな強い思いが伝わってきた。
初めての著書を手にして、「形にできてほっとした」と語る竹内さん。「多くの人に手に取っていただき、被災地の現状などを知ってほしい」と話している。
書籍の売り上げの3%は、竹内さんの提案で、震災孤児の生活・就学支援のための『子どもの学び基金(陸前高田市教育委員会)』に寄付される。
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