中央在住の大久保夏斗さん(19)が今年5月、完全生分解性で自然にやさしい「草ストロー」の輸入販売を行う会社を立ち上げた。普及を通じて環境問題やベトナムの雇用創出などに取り組み、サスティナブル(持続可能)な社会の形成の一助となることをめざしている。「草ストローが地球が抱える課題について考えるきっかけとなれば」と期待を寄せる。
大久保さんが「草ストロー」の存在を知ったのは昨年の夏。当時リュックを背負って旅するバックパッカーとして世界中を飛び回っていた兄の迅太さんが帰国した際に、旅の途中で仲良くなったベトナム人留学生から教えてもらった「草ストロー」の存在を聞いたのがきっかけだった。
草ストローの原料はレピロニアと呼ばれる植物の茎。ベトナム・ホーチミン郊外の農村で作られており、プラスチックのストローと違い、完全に土にかえるのが特徴。ストロー作りは現地の重要な産業となっており、雇用創出にもつながっている。大久保さんは農業によって雇用を生み出す草ストローに可能性を感じ、自身が通う東京農業大学で専攻する国際農業開発学と通じると直感。加えて、幼い頃から環境問題にも関心があったため、「草ストローを日本全国に広げたい」という思いがこみ上げた。そして志を同じくした兄と、兄の友人であるベトナム人留学生ミン・ホアングの3人で、会社設立をめざすこととなった。
衛生管理を徹底
起業にあたり、現地からの草ストローの調達はミンさんに任せ、大久保さんは国内で会社設立に向け準備に奔走した。口に入るもので、なおかつ国外から輸入するということから、特に「衛生管理をしっかりと行わなければならない」と考えた。そこで高温殺菌・UV殺菌を徹底し、食品分析センターで何種類もの検査を行った。その結果、ヒ素、重金属などの数種類の検査をクリア。その他にも植物を輸入するため、農業検査なども通過し安全性を確保。「会社を立ち上げるにあたり、検査が一番大変だった。コストや時間もかかったが、草ストローが安全だということをアピールしたかった」と振り返る。
現地メーカーとの交渉も終え、今年5月に合同会社HAYAMIを設立。社名は3人の名前を組み合わせて名付けた。迅太さんが同時期に他企業に就職したため、大久保さんがCEO(最高経営責任者)に就任。勉強の合間を縫って、営業・広報・発送作業など、国内での業務を主に1人で担っている。
安心安全にこだわり
販売する草ストローは微生物によって分解される性質を持つ完全生分解性であり、なおかつ無農薬で保存料や添加物は一切使用せず、「安心安全」にこだわった。「紙ストローより口触りがよく、耐久性があるところもポイント」と大久保さん。加えてホーチミンの雇用を促進するため、極端に値段を下げず、適正な値段で購入・販売する「フェアトレード」を掲げている。
商品はサイト上で販売するほか、全国の飲食店に草ストローを導入してもらい普及させたいとの思いがあったが、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い飲食店の休業が相次ぎ、直接営業し商品の良さを分かってもらえる機会もついえ、思うように売れずに歯がゆい日々が続いた。
それでも大学がリモート授業に移行すると、その合間を縫って全国の飲食店に電話やメールで営業を再開。興味を示した店にはサンプルを送付し攻勢をかけるが、プラスチックに比べて値段が高い草ストローを導入してくれる店はなかなか見つからなかった。そうした中、夢中で営業を重ねるうちに大久保さんの熱意が伝わり、理念に賛同してくれる飲食店が現れ出す。苦労が実を結び、現在では全国で60店舗、市内で3店舗と取引を行っている。「お客様から『使ってみて良かった』など、いい反響や応援の声をもらえた時が一番うれしい」と笑顔を浮かべる。今後は雑貨店や学生食堂、イベントなど大規模な場での導入もめざす。
資源循環型社会の構築へ
草ストローの普及の先に、さらなる夢を抱く大久保さん。利用後の草ストローを回収し、飼料として再利用して畜産に役立て、加工した食肉をまた飲食店に安く卸すという資源循環型社会をめざしている。その「循環サイクル」は生まれ育った相模原から発信させたいと考える。そのために市内の取引先をさらに増やそうと努めている。
そして生産地であるホーチミンにも思いを馳せる。ただ雇用を生み出すだけではなく、最新の機械や技術を教え、現地の人たちのスキルを上げることでさまざまな場面で活躍をサポートしたいと、夢はとどまることを知らない。
活動の軸は一貫して「サスティナブルな世界をつくる」。「環境問題は地球の問題。全員が取り組む必要がある」とし、「全員ができるところから始めてくれれば」と呼び掛ける。
誰もが暮らしやすい、自然豊かな世界への大きな一歩を、大久保さんは「草ストロー」から始める。