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隣人の戦死 芽生えた実感 淵野辺在住宮崎敬之さん(85)

文化

公開:2021年8月19日

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「兄のような存在だった」という隣人の思い出を語りながら、戦争の悲惨さを改めて伝える宮崎さん
「兄のような存在だった」という隣人の思い出を語りながら、戦争の悲惨さを改めて伝える宮崎さん

戦後76年〜平和への希求〜

 終戦から76年。戦時中を生きた市内の人々にお話を伺い、二度と戦禍を被ることのないよう平和を希求する機会と致します。

 山形県鶴岡市に農家の次男として生まれ育った。

 戦時中は空襲の火の粉が降りかかることはなく、その土地柄も影響して日本全国から疎開してくる子どもたちが多かった。通っていた小学校には教室に入りきれないほどの児童が集まった。中には教科書が買えないような貧しい家庭の子も。そんな中、地域全体で「助け合おう」という精神のもと、宮崎さんも級友に教科書を貸すなど互いに支えあって生活していた。「福岡から来た子とも仲良くなった」と懐かしそうに語る。

 空襲もなく、戦争というものがどこか別世界で起きているように感じていたという宮崎さん。しかし、よく家に遊びに来ていた隣家に住む青年が徴兵されてから、戦争をより身近に感じるようになる。「その人が徴兵されるとき、地元の子どもたちみんなで村境まで見送りに行った。大きな声で軍歌を歌いながら。その人も明るく、勇ましい顔で『行ってきます』と言って旅立った」と回想する。だが、次にその青年の名前を聞くことになるのは、見送った1ヶ月後のことだった。

 風の便りに「海兵として船に乗り込み、撃沈された」と聞いたときは耳を疑った。「兄弟の末っ子で明るくて朗らかな優しい人だった。夜になるとたまに一緒にご飯を食べて、将棋を教えてくれた。教え方がうまかったなあ。彼が死んだなんて到底受け入れられなかった」と悲しげに呟く。

 大人たちは子どもに彼の死を詳しく語ることはなかった。ただ、戦争に対する不信感が子ども心に募っていったという。「学校教育では、『日本は神の国』だと教わってきたけれど、子どもたちはみんなどこか冷めていたように感じる」と当時の複雑な心境を話す。

そして訪れる終戦

 1945年8月15日、玉音放送が流された。しかし、自宅のラジオはノイズだらけでうまく情報を聞き取ることができなかった。それでも、何か大きなことが起きているということは分かったという。学校に行くと、先生から教科書の文字を墨で消すように言われた。最初に消したのは、音楽の教科書に書かれた「君が代」だった。墨塗りしたページは糊で貼り付けられ、開けないように固定された。「学校に行っても教科書がない。持っていくものがないからランドセルを背負うこともなくなった。授業ができなくて、なんで学校に行っているのか分からなかった」

 そして、戦時中に使っていた柔道着や剣道の防具、日本の植民地が記された地図などをすべて、使っていない農家の納屋に運ぶように指示された。教員の数も半数以下に減り、廊下に備えられていた銃器も全て撤去された。目まぐるしく変わる現実に、「戦争は終わった。日本は負けたんだ」と気付かされたという。

 戦争が終結して、今までできなかったことができるようになったのが本当にうれしかった。それまでは遊びといえば専ら相撲だったが、いろいろなことに挑戦するようになった。中でも野球には熱が入った。ボールやグローブは当時は高価で買うことはできなかったが、自分たちで手づくりをして工夫しながら遊んでいた。「富裕層の子たちが田んぼの中に落としたボール1つを拾って遊んだりしていた。毎日が新鮮で楽しかった」。落ち着いた日々を過ごす中で、平和が訪れたのだと実感した。

これからの世代へ

 宮崎さんは中学を卒業後、山形を離れ、親戚がいる横浜で仕事を探し始める。その後、テレビなどの電化製品の普及とともにニーズが高まっていった電機・機械関連の仕事に従事した。最近は、地元の老人クラブ「みたけ福寿会」で清掃をしたり体を動かしたりと、地域活動に取り組んでいる。絵画や書道などにも精力的に挑戦していたこともあり、コンクールで入賞するほどの腕前だ。

 そんな平穏な日々を過ごす中でも、当時の記憶を忘れることはない。「戦争は絶対に繰り返してはならない」と語気を強める。「戦争で一番苦しい思いをするのは国民。ずっと平和な世界が続いてほしい」。そして、発言や表現を制限された時代を生きた宮崎さんだからこそ言えるのは「行動の大切さ」だ。「少しでも何かをやってみたいと思ったら発言、行動をしてほしい」と未来を見据え、にこやかに微笑んだ。
 

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