まだ誰も練習していない早朝のグラウンド。ただ一人、黙々とトンボがけをする姿があった。投手の又吉琉翔（るか）（３年）。昨秋の大会でメンバーから漏れて間もなくのことだ。
強豪の一角と言われながら、昨夏は公立勢相手に初戦敗退。突きつけられた厳しい現実に、新チームの誰もが再起を誓った矢先のメンバー漏れだった。
言葉にならない悔しさがこみあげた。入学後は高校生活を野球に捧げ、「チームが勝つために、今何が必要か」。それを愚直に考え続けてきたからこその胸中だった。
腐ることは容易だった。でも、そうはしなかった。「試合に出られないのなら」と頭を切り替え、雑務を率先し、メンバーを献身的に支えた。「自分がその時にできることをする。たぶん皆だって同じことをするはず。自分が特別なわけじゃない」。謙虚にそう語る表情に人柄がにじむ。
甲子園出場校と渡り合う実力がある強豪であると同時に、部活動を通じた人間形成を重んじる同校。72人いる部員の中でも「人間性は随一。部活だけでなく、学校生活も含めて真面目」という指揮官の評を受けて「常にというわけじゃないけど」とはにかみながら、こう続けた。「日頃の行いがイチかバチかのプレーに現れる。日頃の気の緩みがグラウンドに出てしまう気がして」
高野連の独自大会は名実ともに集大成となる舞台。３年生は全員ベンチ入りする予定で、自分も裏方に徹するつもりは毛頭ない。野球は高校までと決めている。だから――。「自分の全てを出し切りたい。今まで応援してくれた両親、監督、仲間にプレーで恩返しできたら」
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