新春市長インタビュー 「市民が自立したまち」全力で推進 2011年度の予算は地域の意向を反映 まちの経営を行政から市民へ
山本市政からバトンを引き継ぎ、今年2月に就任4年目を迎える海老根市政。昨年は市制施行70周年の記念イベントが各地で催された。海老根靖典氏が市長になり、藤沢市はどう変わったのか、またどう変えていきたいのか、今後の課題とともに自身の抱負を聞いた。
山本市政から海老根市政となり、最も変わったのは
市長としてフットワークよく動くこと。自分は藤沢市の営業マン、セールスマンのつもりでもある。いろんな首長がいるし、時代背景によっても違うが観光もPRも積極的に行う。
市長には行政マン、経営者、政治家としての側面がある。行政とは異なる政治的な配慮も必要となるので、政治家的な側面としては市民の目線は忘れてはいけないというのは常にある。
山本市政も、市民が主役を掲げていたが
私は市民の目線による市民経営が大事だと考えている。最終の意思決定機関は議会だが、予算や条例案をあげる際は、最大限に尊重するのは地域の意見。市内 13地区の地域経営会議の決定が大切。これを議会がイエスと言うかノーと言うかは別の問題となるが、私は地域の考えを最大限尊重して来年度の予算に反映し ようと考えている。そのため市内13地区をすべてまわり、現状の把握に努めてきた。
意見を言うには、市民が現状を知ることも大切だが
地域ごとの資料も、職員に対しては良い部分も悪い部分も全て市民に出すように指示している。地域主体だから。決して市民に耳心地いい話だけをしてはいけない。今までも市民主体のまちづくりが進められてきたが、さらに重点が市民に置かれてきている。
市民主体の行政運営は、主にくらし・まちづくり会議を通じて、行われてきた
これまでのくらし・まちづくり会議では、市民が全ての経営をするということはありえなかった。この地区は子育て、ここでは防犯など1つのテーマなどだっ たが、大きく変わったのは全ての課題を地域(経営会議)に預けてきたということ。市民は今まで、経営者ではなくサポーター役だった。藤沢市の運営をお手伝 いしてくださいというスタイルだったのが明確に変わった。市民参加ではなく行政参加。市民が経営すべきで、市民が主体となる。
「地域経営会議」定着させたい
くら・まち以外でも「市民主体」は言われてきたが
行政と市民のやっていることではどうしても乖離があった。昨年、(施設がどれぐらい稼動しているかを調べた)施設白書を出したが、市民の家でも稼働率が 3%、6%のものがある。これは何かというと、いかに市民の意見を行政が聞かずに(建物を)造って来たかという結果に他ならない。
総合計画のたたき台にしても、全てコンサル会社が作っており、全国の自治体の計画が似通ってくる。これに少しだけ藤沢らしさが入っているくらい。同じコンサルが作っているから当然と言えば当然のこと。
しかし、今回は地域の意見が入っている。自分の言葉が計画に入っていれば目が向き、興味も持ち、自分の総合計画になる。それが市民経営なんです。将来に わたって総合計画はビジョンであり、まちのビジョンも自分で作る。かつては一部の代表を除き、市民は入っていなかったのですから。
山本市政から海老根市政へ、一番大きく変わったのは「市民参加」の中身か
最も変わったのはまちの経営、マネージメントが行政から市民に移ったということ。いろんなリーダーがいるが、わたしは常に皆さんが納得した形でやっていきたい。行政がどんなにいい政策をつくっても皆さんが納得しない政策は決して長持ちしない。
市民はスピード感も求めているのでは
改革はスピード感も大事だと思うが、強引に進めるのではなく、常に合意をとりながら進める。市長に当選して、最初に行ったのは全部の職員と朝から晩まで勉強会を行い、マニフェストはこういう意味なんですよ、皆さんどう思いますか、と、伝えていくことだった。
皆さんにもアイデアがあって変更したければどんどん言ってほしい、そのかわり資料をつけて変更する理由を説明してほしい、と。
そして当初108項目だったマニフェストは167項目にまでなった。全て話し合いながら進めものだ。一昨年、マニフェスト大賞をもらったのは、この進行、運営過程が評価されたからだと思う。
「地域経営会議」定着させたい
この1年で軌道に乗せることを目指す
職員がマニフェストに振り回されている、という声も聞くが
作って終わり、作ったから従いなさいというリーダーもいる。私のやり方は絶えず、市民の目線による市民経営だ。これが市政運営の基本。経営者はあくまで も市民の皆さん。これができるのは、藤沢市には市民集会や、くらし・まちづくり会議があり、市民を主体としたまちづくりをどこの自治体よりも先進的に取り 組んできたからだと思う。私は、常に市民の合意をとりながら行ってきた。いや、合意というよりは皆さんに納得をしていただいて、皆さんにやっていただい た。
市民参加の事業運営には、当然予算が絡んでくるが
今回の市制施行70周年事業もほとんど市民主体でお金をかけてないですよ、行政は。たとえばTUBEのコンサート。グル麺コンテストや健康駅伝など各地のイベントで市はほとんど準備金しか出していない。全て市民の発意でやっている。
藤沢は農業でも商業でもさまざまな側面からみてもなんでも揃っているすばらしいまち。トップが代わってもうまくいくまち。
ただ、主体をどこに置くかは大事なこと。納得して自分たちがこういうまちをつくりたいというマネージメントをしないといけない。大切なのは自立すること だと思う。市民の目線による市民経営は単なるキャッチフレーズではない。この国で一番大切で足りないのはそこだと思っている。
今後、藤沢市のどこを変えていきたいか
地域経営会議がまだまだ知られていないのが、公開討論会でわかった。行政マンも市長も知っているつもりになっていた。がっかりすると同時にほんと?と言 う感じだった。これをしっかり定着させていきたい。これをあと1年かけて定着させ、軌道に乗せること。「やるからにはぶれないでほしい」「迷わないでほし い」と地域経営会議のメンバーから強く言われた。自分もそのつもりでやっていく。
逆に、変えたくても変えられないことは
物事は議論して進めなければならないが、全員が全員納得するわけではない。人間社会だから仕方ない部分もある。だからこそ会議が必要だし。お互いが妥協 する面もなくてはならない。そうでなければ絶対うそであり、トップが無理やり押し付けたことになる。施策は議論ありきで進められる。それがなければ独裁国 家と同じだ。
「議論が大切」という海老根市長の考えが、市内全体に伝わっていないのでは
自身の思い・考えを伝えるのは従来から、なかなかできなかった部分でもある。市長選の投票率が30%台、国政は50%台と、20%の開きがあることからも、まだまだ皆さんに市政に参加してもらっていない。
例えば、交通事故や犯罪の微増、子どもたちの置かれている環境の変化など、市内でもいろんな危機感がさまざまな形で出てきてはいるが、それに市民が気付 くかどうかが大事。逆にこうしたことに気付いてもらう、関心をもってもらうには、自分たちで藤沢市を経営してもらうのが一番早い。市民経営の推進が自身の テーマであり挑戦だと考える。
「子どもたちの環境の変化気づいて」
昨年、自身が行った事業の中で最も評価できるのは
1つめは子育て支援。小児医療費を小学6年生まで無料化したことで、小児科医が悲鳴をあげるだろうとの危惧もあったが、大きな混乱はなかった。市民の中にも自分たちの予算という意識があったのではと思う。
そのほかでは帆船を用いたヨット事業や、小中学校をまわり、現状の把握に努めた。そして大切なのは地域で子どもたちを育てていくことだと考える。
改革が行われている本町小学校でも、地域参加型の教育が進められているが
地域の人が学校に入っていける状況を作ること。もちろん事件が起きては困るが。ほとんどの市民は信頼できる人なので、先生方と一体となって子どもたちを教えていく。
今学校で一番問題なのは先生たちの手が足りないこと。なぜかというと学習指導ではなく、生活指導に時間をとられてしまうから。新入生サポート事業で介助員をつけているが、幼稚園や保育園でしつけがされていないように思う。こうしたしつけは教師でなくてもできることだ。
また、学習に関しても現在では6校、地域の人たちが放課後に図書館などで勉強を教えている。正式には23年度の4月からスタートする。
小中学校では、厳しい家庭環境への対応が求められているが
今は世の中も大変で生活保護受給者も増えている。9割の子が塾通いといわれるが、行き場のない子もいる。そうした子の受け入れは学校であってもいい。学 校は夜間は空いているし、そこにちゃんとした見守る人がいて、勉強を教えてくれる人がいれば、学校は十分にその拠点になりうる。
子育てに次いで、環境対策の面でも、精力的に動いた印象を受けるが
藤沢は三大谷戸など豊かな自然環境がある。土地を確保するだけではダメ。みんなで見ながら維持をしていかなければならない。そのためのビオトープ指導員養成講座などを日大で開催し、どうやったらよい自然が残せるのかに取り組んだ。
もう一つはできるだけCO2を削減し、自然エネルギーを使うために、小中学校に太陽光パネル設置の計画を立て、3年間で実現させていく。もちろん国の助 成も受けているが。子どもたちに太陽光の必要性を理解してもらえること、子どもたちの意識が変わってくることが大きい。
さらに、現在取り組んでいるバイクシェアリングや電気自動車の普及など、使う人の意識にもよるが、こうしたものの利用でCO2削減につながればと考える。これは世界共通だ。
インフラ整備についてはどうか
今、一生懸命やっているのは、藤沢厚木線が通ったら、今度は綾瀬インターであり、縦貫道は24年度中に完成する。すでに海老名インターチェンジが整い、 下も西久保から東名の海老名まで繋がるまで約1年となっている。藤沢から約65分かかっていた東名までのルートが約20分となり、これは産業を活かすため の整備となる。
さらに相鉄の延伸がある。これを慶応まで伸ばして新幹線の新駅設置につなげたい。これには寒川、茅ヶ崎との協力が必要だ。鉄道網、道路網のインフラ整備は、C−Xや松下の跡地、武田など、産業育成には欠かせない。
【1月7日号に続く】
「市制施行70周年事業は市民主体でお金をかけずにできた」と海老根市長
海老根市長にインタビューする本紙編集長・小島忠宏
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