「上機嫌力」を掲げてスタートした「2011海老根市政」は、3月11日以降、様々な問題に直面し、「リーダーシップ」「市民力」が問われた1年でもあった。行政のトップとして先頭に立ち続けた海老根靖典藤沢市長に、これまでの藤沢、そしてこれからの藤沢について聞いた(聞き手/本紙・藤沢編集室 小島忠宏)。
――昨年は、3・11を境に、藤沢もあらゆる場面で様々な影響がありました。
「藤沢だけでなく、日本全国、3・11でした。国家的危機イコール、藤沢の危機です。この危機に、藤沢はどういう対応をしていくのか。被災地に対してどういう支援、救援活動していくのか。市長としての最優先課題でした」
――あの混乱の中、被災者の方を対象に、藤沢市では就労を含めた支援策を打ち出しましたね。
「震災後、4月8日に東北に入りました。『現場を見なきゃわかんない』っていうのは、まさにこのことでした。陸前高田市の戸羽太市長と会って話を聞く中で、この皆さんをどうやって救えるんだろうと考えました。
まず、この場所から移動してもらわなきゃいけない。藤沢に一時的に来ていただくにしても、すんなりこの人たちきてくれるのかな、という風に思ったときに、住居だけじゃダメだろうと思った。ご家族もいるだろう、まず、仕事を見つけなきゃダメだろう。働くことは最上の喜び。こう、思ったんです。
働けないってことは、避難所生活の人にとって、ただ、食べ物をもらっている、義援金のお金をもらっているだけでは、本当の幸せじゃないだろうと思ったんです。
復興は10年以上かかります。この間、1世帯でも2世帯でも来ていただけたら、と思うようになった。それで、あのパッケージプランを作りましてね。とにかく、やろうと」
――自身のミニブログ、ツイッターを通じて市民から意見があったそうですね。
「市民の方から(被災者を受け入れるなら)羽鳥にあるNTTの社宅が空いていますよ、との情報をいただきました。民間企業なので、採算の面とかを考えると、できるのかなと思ったんだけど、NTTは空けてくれたんです」
――固定資産税の減免措置などをやったんですか。
「何もつけてないです。いろんな意味でのNTTのサービスなんです。正直いって民間の力借りたなと思ってます。雇用については生活圏からも、藤沢市で雇用を用意できないか、と考えました。ただ、正規の採用だと、試験を受けていただかなくっちゃいけない。それに、行革の最中ですから、いっぺんには無理。ならば、臨時職員でどうか、ということになったんです」
市民主体の市民経営を
継続の重要性を強調
――3月11日の藤沢を振り返れば、江の島に観光客がいて、藤沢駅には帰宅難民の方がいて、避難所となった学校では混乱があった。藤沢市の防災体制で機能したところと、機能しなかった部分の検証は。
「落ち着いて検証できなかったが、今だからこそ検証できると思っていますし、結果を出していきます」
――3月11日からしばらく、市災害対策課は市民の電話対応に追われていました。もっと他に、やらなくてはいけないことがたくさんあったと思いますが。
「正直、動けなった。災害対策のためのITやBCP(災害時にも、事業を継続させるための行動計画)の立ち上げもあったが、充分に対応できなかった。多くの職員が災害対応に取られていたから、という面もありますが、反省点もある。
市民からは、災害対策だけでなく、テロも含めてあらゆる危機に対応できる危機管理センター的なものができないかという要望を頂いています。組織の見直しも含めて、対応を図っていきたい」
――3月11日以降、海老根市長は被災地にも行かれていますが、足元、藤沢の教訓とすれば。
「考えたのは、どうやったら市民のみなさんが気持ちをしっかり持って、自分たちの生活を戻すことができるか。ここが重要でした。それと、行政だけじゃできないんです。市民の皆さんが主体で動いてもらうことが大切。藤沢は町内会や13の地区で動く、こういう組織ができている、これが一番大事だと思いました」
――災害情報の発信については。
「情報伝達はすごく言われている。大きかったのは、防災無線が聞こえなかったこと。ただ、大津波警報を伝えるサイレンは聞こえていたんじゃないかと思う。サイレンのあと、『大津波警報です』と、流し続けていました。それは、かなり大きな音だったと思います」
――サイレンのあとの警報は、避難命令ではなかったんですよね。
「海には近づかないでください、というレベルだったと思います。ただ、防災無線の声については、男性でなく女性の方が聞き取りやすい。声一つで全然違う。簡単なことですが、やってみなきゃわからない、ということをすごく感じました」
――もう一つの大きな問題は放射能ですね。
「これは、見えないから大変です」
――放射能に関する情報は、内閣府といった国のルート以外から、市長の所に届いていたんですか。
「自分の個人的な繋がりから来ていました」
――国から、藤沢市に対して対策をとるような指示は無かったのですか。
「直接は、無かったです。国も大変でしたよね。国民がパニックにならないようにするのが大事な使命だと考え、情報はストレートに出さなかったんじゃないですか。メルトダウンの情報も、後から入ってきた。知らなかったわけはないだろう、という気持ちは強いですね」
――41万人の市民の命を守る市長として、情報が入って来ないというのは、モノを判断をする際、難しいですね。
「これは、非常に難しい問題です。国に安全の基準がないですから。『国が情報を出してからじゃ遅い』という人もいますが、下手に動くとパニックの原因にもなります。そこらへんはトップの判断ですね。
ただ、我々自治体の中で、できることはある。例えば、給食の食材検査を毎月1回からほぼ毎日検査にしたり回数を増やしたり、放射能測定器を貸し出すとかスタートするわけです。それによって、少しでも市民の不安解消につながればと思います」
――石原都知事は被災地のがれきの受け入れを示し、都民からなんと言われようと、やるんだという姿勢を見せています。藤沢市はどうですか。
「がれきに関しては何も基準が無いですから、私どもも慎重な対応をせざるを得ない。国が指針を示してもらう以外にないんですよ。放射能にどれだけ汚染されているか。どれだけ人体に影響があるか、自治体に判断できない。これは、我々自治体の限界でもある。神奈川県知事がどうしてもというなら、検討せざるを得ないけれども」
市民目線・防災・子育て支援 3つの重点課題
――今後、藤沢市政の中で、やっていかなくてはいけない重点課題を3つ挙げるとすれば。
「一つは、誰が市長になっても、市民の目線の市民経営をしていくことです。とくに、新総合計画ができたばかりですから、これをまた作りなおすのは、混乱の元になり、無駄が二重になる。この新総合計画を定着させ、続けてやっていかなくてはいけないことです。
もう一つは、新しい組織体を含めながら、地域防災のあり方、計画を見直していく必要がある。藤沢には10mの津波が来ると言われています。JRより南側は、おしなべて9m以下です。どこにどうやって逃げるのか。当然、これを前提に考え直さなきゃいけない。
3つ目は、子育て問題です。潜在的な待機児童は748名です。とくに3月11日以降は増えている。今までの手法で、保育園の定員を増やすだけじゃ間に合わない。
問題は、0歳から1歳、小さいお子さんを抱えている家庭こそ待機児童が多い傾向にあります。従来の保育園のあり方じゃだめ。そうすると、建替えも必要だと思ってます」
――これらの政策を進めるためには原資が必要です。藤沢市は昨年、51年ぶりに地方交付税交付団体になりました。税収、支出についてはどのように考えますか。
「あまり、不安を感じてないです。というのは、交付、不交付以上に大事なのは、自治体財政の健全度です。健全化法がありますが、例えば公債(市の借金)比率は3年前に8・2%だったものが、今回は6・2%。自主財源比率が全国782団体中、22位です。財政力指数は、健全性を基準にすべきです。
ちょっとの差で不交付団体になったら国からの補助金がもらえないことがある。これはおかしい、僕らがずっと言ってきたことです」
――最後に片瀬、旧江の島水族館跡地の土地購入については、市民からは善行と同じ話、という感じがあります。市長としては、どのように考えていますか。
「これは、まったく違う話です。というのは、3月の初旬、震災前に『あそこを開発する』という話を聞きました。あそこは高層建物が良い、悪いではなくて、観光地として今後発展してかなきゃいけないところです。それを考えたときに、建物群だけになると、観光地として成り立つのかという気持ちがありました。
もう一つは、3・11です。もし、夏に藤沢で地震による津波が発生したとき、海水浴客やマリンレジャーで来られた方をどうやって逃がすか。タワーを作っても100人ですから。既存のマンションじゃ足りない。避難できる場所ってことを考えました」
――地元からは、避難場所として高い建物は欲しいという声を聞きますが。
「これは、いろんな声を集めて考えなきゃいけない。既存のマンションに外付け階段を付けて欲しい、屋上に柵をつけて欲しい、既存の建物を活用するのが先じゃないのか、とういう声もあります。
ビルを建てるには何年もかかります。だから、そこで生活する皆さん、働いている皆さんのご意見を聞きながら、考えていかなくてはいけなかったなと思ってます」
――行政もスピード感を求められ、市長が現地を見て買うと判断するケースもあるかと思いますが、なぜ議会などのプロセスを経なかったのですか。
「従来、土地を買うのに役所は非常に慎重になる。慎重になるが故に、なかなか情報が公開されない。だから、皆さんに事前に公開してくことが遅かったのかなと思います。もっと情報を公開して総合的に進めていけば、もっといいアイデアも出ていたかもしれない。率直に反省しています」
――今回の計画は市都市計画課が中心となっていましたが、購入を計画する書類の日付の打ち間違いなどがありました。こうしたことは、普通起こらないのではないですか。
「起きてはならないことです。いろんな意味で、行政の中で便宜的にやってきたこともあったんじゃないですか。それは、私も勉強不足でわからない部分もあり、反省するところです。そういう部分は無くしていかなきゃいけないですね。少しでも疑念を持たれちゃいけない。そういう制度ないし、システム、組織にしていかなくちゃいけない。
情報公開ってよく言われますけど、その情報公開の本来の意味をしっかり頭に入れて考えていかなきゃいけないなと思います。それと内部統制ですね。自助努力で、組織内で間違いがあれば、自動的に是正していく内部統制が必要かと思います。これもまだまだ、取り組んでいかなくてはならない大きな課題です」
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