相模原市立博物館レポvol.19 64年前の標本が問いかけること 生物担当学芸員 秋山幸也
相模原市立博物館では開館25周年記念企画展「神奈川の植物、相模原の植物―植物誌から考える生物多様性」を開催中です(11月15日まで)。一般にはあまり馴染みがないと思われる「植物誌」という書籍が、実は地域の自然環境を守り、生物多様性を考える上でとても重要であることを紹介した展示です。
今回はその中から、「ヒメハッカの押し葉標本」という展示資料に注目してみたいと思います。この標本のラベルには「1956年9月2日、相模原・大野・鹿沼」と記されています。今から64年前、おそらく現在の鹿沼公園(中央区のJR淵野辺駅南口近く)あたりで採集されたものと思われます。当時このあたりは、雨水がたまって湿地のようになっていたことが、古い写真を見るとわかります。ヒメハッカは、日当たりの良い湿地のまわりなどに生える植物なので、生育に適した環境だったのでしょう。
ただし、ヒメハッカは現在、神奈川県内では絶滅種とされています。県内外の主要な植物標本の収蔵施設(植物標本庫)を探してみても、県内で採集されたヒメハッカの標本は、当館のこの1点と、横浜で1900年代初めに採集された1点が東京大学にあるだけの大変貴重なものなのです。
企画展のメインテーマとなっている『神奈川県植物誌2018』(神奈川県植物誌調査会編)は、県内に生育する植物をすべてリストアップし、その分布状況などを明らかにするために長年にわたり調査を続けてきた成果が凝縮されています。その結果、県内にはどんな植物が生育しているかということに加え、消えゆくもの、増えつつあるものなども浮かび上がってきます。ヒメハッカはこうした調査以前にひっそりと絶滅してしまったようです。標本がかろうじて残されていたことにより、「元から無かった」のではなく、「絶滅した」と言えるのです。
私たちは生き物の標本を過去にさかのぼって採集することはできません。展示ケースの中のヒメハッカの標本の前に立つと「あなたの生きる時代の標本をしっかり採って残していますか?」と問いかけられているように感じるのです。
※博物館および企画展の日程は状況により変更になる場合もあります。来館前に最新情報をHPや電話でご確認ください。
■相模原市立博物館【電話】042・750・8030
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