【10】合議制裁判がないことの不利益 連載 相模原の「司法」を考える 寄稿 多湖翔弁護士
このシリーズコラムでは、相模原の司法の現状と課題について、市にゆかりのある弁護士が解説する。多湖翔氏が担当。
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2020年12月に神奈川県弁護士会相模原支部が支部会員向けにアンケートを行った結果、合議制裁判が横浜地方裁判所相模原支部(以下、相模原支部)に設置されていないことによる多くの不利益が改めて明らかになりました。
このアンケートは、当時89名在籍していた支部会員のうち50名が回答するかなり回答率の高いものでした。合議制裁判がないことで不利益を経験している会員数は28名となり、過半数が何らかの不利益を受けた経験があると回答しました。
不利益の内容としては、【1】審理の遅延、【2】場所的遠隔に伴う時間的・金銭的制約、【3】質の良い裁判へのアクセスのしにくさ、【4】刑事事件の身体拘束が不当に長引くことなどが挙げられました。
具体的にまず【1】ですが、合議制裁判が相当として横浜地方裁判所本庁(以下、本庁)へ送られた案件は、そのまま相模原支部で審理される場合より審理が1カ月から2カ月程度遅滞します。別の裁判所で改めて内部手続きを経るためです。本庁に送ること自体が争われた場合など、さらに数カ月以上遅滞したケースもあります。
【2】については、例えば関係者全員が相模原市在住であっても、片道1時間から1時間半かかる本庁への出頭が必要になり時間的・金銭的負担が余計にかかります。新型コロナウイルスの流行で高齢者の方が電車移動を恐れ、裁判への出頭ができなくなったこともありました。地元で生じる重要な問題も地元で審理することができないのです。
【3】は一般的に合議制裁判の方が、裁判官が単独で行う単独事件と比べて質の良い裁判を受けられると考えられていますが、いろいろな不利益で自分の案件を合議制裁判とされることに、躊躇する状態が生じています。
最後の【4】については、刑事事件について身体拘束が相当ではない(無実や罪が軽いなどの)案件について、解放の手続きが遅れることが判明しています。
いずれも地元の市民の方の看過することができない不利益です。
合議制裁判は、難しい案件を3人の裁判官が知恵を合わせて解決する制度です。これがないのは、例えば自分が重い病気になった時、近くの病院で難しい手術ができず、遠く離れた別の大きな病院へ通わなければならないのと同じです。確かに難しい手術を受ける機会は多くないかもしれません。でも、自分がその立場になったとすると、頼りになる病院が近くに欲しいです。
裁判所も同じです。いざという時のために地元の裁判所は充実していた方がやはりいいのです。
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