戦後間もなくから地域住民らの安らぎの場として親しまれてきた銭湯「不動湯」(辻堂元町1の5の22)が4月30日を最後に70余年の歴史に幕を下ろす。平成以降は徐々に客足が減り、設備も老朽化。新型コロナ禍も追い打ちとなり、やむなく閉店を決断した。昭和の趣きを残す施設には常連客やファンも多く、別れを惜しむ声が相次いでいる。
「始まったものには終わりがある。寂しいけど、仕方がない」
昔ながらの番台に衣服を入れる籐籠(とうかご)、堂々とした佇まいの溶岩風呂。店内を見渡しながら、店主の山根鎌吉(けんきち)さん(82)が呟いた。
山根さんによると、同店は1949(昭和24)年頃に開店。昭和30〜40年代は風呂のない家も珍しくなく、開店前から利用客が列を作るなど、多くの人で賑わった。
生活様式の変化とともに利用客も次第に減ったが、根強いファンのために営業を続けてきた。20年以上毎日のように通っているという茅ヶ崎市在住の女性(83)は「熱めのお湯が気持ちよくてね。昔は近所にも数軒あったけど、昔ながらの銭湯は今じゃここだけ。寂しくなる」と惜しむ。同じ風呂好きが集まる、憩いの場でもあったという。
店主・山根さん「地域に感謝」
山根さんは富山県生まれ。18歳で上京し、都内の風呂屋で10年ほど勤めた。店が閉店することになったため、仕事を斡旋する周旋屋の紹介で1972(昭和47)年から借り手を募っていた現在の不動湯で商売を始めた。以来50年。「長くやっていたからね。楽しいこと、苦しいこと色々あった」と振り返る。
閉店を決めたのは昨年末。営業が振るわないところに新型コロナウイルスの影響で客足が激減。3割ほど売り上げが落ち込み、家賃の支払いが難しくなることもあった。
商いを続けたい気持ちはあった。だが、70年以上が経過し建物や設備の老朽化が進んでいたことに加え、80歳を過ぎた身に日々の釜焚きや掃除などの肉体労働も堪えるようになっていた。
「店じまいにはちょうどいい頃なのかな」
後ろ髪を引かれる思いで閉店を決断した。
「気持ちよかった」「いい風呂をありがとう」。そんな利用客からの声が仕事の励みだった。だから、何よりも客目線の商売を大事にした。地域の公衆衛生に少しは寄与できた自負もある。話の終わり、地域への思いを込めてこう結んだ。
「感謝の気持ちしかない。長い間利用していただき、本当にありがとうございました」
◇
営業は午後3時から9時30分。月・火曜定休。問い合わせは同店【電話】0466・34・6282。
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