夏の登山シーズンを迎えている丹沢。コロナ禍で全国的にアウトドア人口が増加し、表丹沢の入口である秦野にも多くの登山客が訪れている。登山者たちが体を休め、「いざという時の駆け込み寺」としての役割も果たす山小屋を陰で支える「歩荷」の仕事とその現状を、塔ノ岳山頂の尊仏山荘を拠点に活動する板倉久士さん(45)に聞いた。
歩荷とは、何十キロもある荷物を背負い山を登り、山小屋に物資を届ける人。山小屋運営に欠かせない存在で、塔ノ岳を定期的に登る歩荷は3人ほどいるという。
茅ヶ崎市在住の板倉さんもその一人。登山が趣味で、大山で出会った北樋口康さんに憧れ車関係の仕事をしながら歩荷を始めた。好きが高じて秦野で山に携わる仕事に転職し、休日の月・木に歩荷として活動している。
背負う荷物は装備を含め50kgほど。荷物を載せる背負子は自分用にカスタマイズし、片道4時間半かけ尊仏山荘の主人に荷物を届ける。登頂中、登山者は道を譲り声援をくれるなど「みなさんとてもマナーが良くて、山の中で困ったことはないです」と笑顔を見せる。
課題は山積
一方で、近年では歩荷のなり手が少ないという問題もある。板倉さんによると塔ノ岳や鍋割山にはコンスタントに活動できる専属歩荷がいるが、他の山小屋では小屋番自らが荷揚げをしている。板倉さん自身、たまに応援で他の山小屋に荷揚げすることもある。
歩荷のなり手が少ない要因の一つが、報酬の少なさ。交通費や食費など必要経費でなくなるため、ほぼボランティアに近い状態になっている。歩荷に憧れる登山者は一定数いるが、こうした状況から本当に山が好きでなければ続かないというのが実情だ。
後に続く人がいて欲しいという思いは強く「職業として成り立つくらい報酬があれば」と言うが、現状では山小屋で売る物を値上するしかない。「そうすると今度は山小屋の経営が成り立たなくなり、本末転倒になってしまう」と、いち歩荷として現状を憂う。また、歩荷の減少に伴い専用の「歩荷道」も減り、現在使用している林道が荒れ始めているのも心配事の一つ。他にも、山に登る際の駐車場が確保できないことがあるなど悩みの種は尽きない。
しかし、「大好きな丹沢の役に立てていると実感できる歩荷は、とてもやりがいある仕事」と板倉さん。「山小屋利用時、売っている物は我々歩荷が運んだものだということを思い出し、一つでもいいから何か買ってもらえたら。それが山小屋の維持に繋がり、ひいては登山者の安全に繋がります」と続けた。
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