日本国憲法の制定過程から学ぶ 国際法規遵守が国内法よりも優位にある憲法 〈寄稿〉文/小川光夫 No.88
1946年8月2日、第8回の芦田委員会が開かれた。まず、自由党の高橋康雄議員、大島多蔵議員より憲法第1条の「天皇は、日本國の象徴であり、日本國民統合の象徴であって、この地位は、日本國民の至高の総意に基く」について、「日本國民の象徴」を「日本國民の中核」に修正したいという意見が出された。これについては反対が多く、高橋・大島両議員の意見は通らなかった。続いて社会党の鈴木義男議員より「日本國民の至高の総意に基く」という言葉は曖昧であり、明確にしたい、という申し出があり、それに笠井重治議員が賛同して「主権の存する日本國民の総意に基く」となり、協同党の林平馬議員なども賛同して意見の統一が図られた。続いて第84条「皇室財産から生ずる収益は、すべて國庫の収入とし・・」について、自由党、進歩党、協同党、新政会、無所属から「皇室財産から生ずる果実は、世襲財産から生ずるものであり、これは世襲財産たる所有者の収益とすべきである」という意見がだされた。この件について、社会党代表は反対したが、小委員会の全体の意見として取り纏められた。しかしこの条文については、アメリカのSWNCC―228(国務・陸軍・海軍三省調整委員会の憲法に関する委員会)案には「一切の皇室収入は、国庫に繰り入れられ、皇室費は、毎年の予算の中で、立法部によって承認されるべきものとする」となっており、総司令部側も「すべて皇室財産は」、「すべて皇室の費用は」というように、強い文言で否定する規定を要求してきて実現しなかった。続いて芦田委員長より94条には「この憲法竝びにこれに基づいて制定された法律及び條約は、國の最高法規とし、その條規に反する法律、命令、詔勅及び國務に關するその他の行爲の全部又は一部は、その効力を有しない」というふうになっていたが、外務省の方で修正の際に条約という文字を抜いてしまった。これでは日本国民が条約を尊重するという文字が一つも現れていない。新たに第2項を挿入したらどうかという意見が出された。これについて犬養健議員より、自分も先日、同趣旨のことをお尋ねしたが、法制局では入れない方がよいとの答弁があったが、いかがなものか、と問い質した。これに対して佐藤達夫法制局長は、形式面からしてこれが「最高法規」という章の中に入れるべきものではないとした。しかし北昤吉議員や鈴木義男議員などから反対の意見が続出し、現在の98条2項「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」となった。しかし、この第98条を1項と2項に分けたことは、条約と憲法との効力関係をあやふやにしているという指摘がある。世界的通説では、国内法を優越させ、国会の承認のない条約を無効としているが、わが国の政府はこれまで一貫して条約優位説をとってきている。
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