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多摩版 公開:2019年8月8日 エリアトップへ

鶴牧在住久保さん 30年越しの映画化 『あの日のオルガン』の原作者

文化

公開:2019年8月8日

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1982年に出版された本と昨年の復刻版を手にする久保さん
1982年に出版された本と昨年の復刻版を手にする久保さん

 終戦から今年で74年。戦時中に、日本で初めて行われた「疎開保育園」をテーマにした映画『あの日のオルガン』(監督・脚本/平松恵美子氏)が今年2月に全国で一斉に公開され、8月から各地で自主上映が始まった。同映画の原作となったのは『あの日のオルガン 疎開保育園物語』(朝日新聞出版)。著者は、市内鶴牧在住の久保つぎこさん(76)さんだ。

 同作品は、1944年の東京で、20代を中心とした当時の若手保育士たちが国の決定を待たず、日本で初めて園児を連れて集団疎開を行った「疎開保育園」についての実話をもとに描かれた物語。映画には、戸田恵梨香さん、大原櫻子さんら今をときめく俳優陣が出演し、注目を集めている。

きっかけは童話

 幼少の頃から本が好きで、将来は物書きになることを目指していた久保さん。大学は文学部に通い、卒業後は一転して桐朋学園芸術短期大学の演劇科に入学。新劇の世界にも11年身を置いた。結婚後に、3人の子どもを育てる中で、生活費を稼ぐために福音館書店の月刊誌「子どもの館」に童話を応募。掲載された作品を旧知の童話作家・松谷みよ子さんに送ったところ、居合わせた編集者の目に留まり、第1作となる『7月6日はれのちけんか』を出版することになった。それから「戦時中の保育園の疎開をテーマにした映画を撮るからその原作を書いてほしい」という依頼につながり、同作品を執筆することとなった。

完成まで3年

 2作目となる同作品はルポルタージュ。「量的に書けないと思って断ろうと思った」と葛藤がありながらも、周囲の後押しを受け書くことを決めた。編集者の手引きで、当時の保育士たちが園児を連れて疎開した埼玉県の平野村(現・蓮田市)の妙楽寺に集まると聞き、現地に赴いた。向かうバスの中で本人たちと居合わせ、話を聞くと「何も覚えていない」ということだった。「その時のことよりも、戦後の食糧難の方が大変だったみたいで」と久保さん。

 戦時中に疎開先で生まれ、戦争のことや東京大空襲のことは詳しく知らなかったため、本に書けるほど当時の社会情勢がわからない。自分にできることは何かと考えた結果、人物を詳細に描写していくことを決めた。時間をかけて一人ひとりに取材し、一人1章、カットバック方式を取り入れ執筆を始めた。書き進めていくも、納得がいく出来には程遠かった。「2年経った頃に、聞いた通り、思った通り、受け取った通りに書けばいい」。そう気づき、ペンを走らせていくと他の人になり替わる役者の経験が役立った。依頼を受けてから3年。1982年11月に草土出版から『君たちは忘れない 疎開保育園物語』というタイトルで出版した。

 本ができたものの、当初の目的であった映画化はされなかった。「本も売れずがっかりだった。実力だから仕方がない。でも納得のいく出来ではあった」と当時の心境を語る。

「感想聞かせて」

 それから30年以上経ったある日。この作品を覚えていたプロデューサーから、突然映画化の話が舞い込んできた。昨年7月には朝日新聞出版が復刻版を改題して出版。今年2月、ついに映画が公開された。「30年以上も前のものが映画になり、本も復刻されるなんて、強運だなと思いますね」と笑顔を見せる。

 戦火が迫る中で、国は何をしていたのか。東京大空襲の前に、疎開を決心した保育士たちの組織の力。彼女たちの強さが50人余りの子どもたちの命を救った。大切な命を未来へつなぎ、必死に生きた姿を映した作品がここにある。「映画化で私自身が再び日本の歴史を学んだ。若い人にぜひ見てもらって、感想を聞かせてほしい。感想を伺うことがその人との間に橋を架けるチャンスになる。そのチャンスを今後の私自身に生かしていきたい」と呼びかける。

 なお、来年、多摩市内でも同作品の自主上映が検討されているという。

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