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三浦版 公開:2017年1月1日 エリアトップへ

截金(きりかね)師・長谷川智彩(ちさい)さん(毘沙門在住) 極限の彩りに魅せられて

文化

公開:2017年1月1日

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制作中の「仏眼曼荼羅」を手にする長谷川さん
制作中の「仏眼曼荼羅」を手にする長谷川さん

 緻密、華麗、荘厳。極限の美しさ―。截(きり)金(かね)で彩られた作品を見た者の多くは、そう賛美する。截金とは、毛髪ほどの細さに裁断した線状の金箔を使い、彫刻や絵画の上に麻の葉や七宝などの文様を描く装飾技法で、平安時代の仏教美術として発展した。

 毘沙門在住の長谷川智(ち)彩(さい)さんは、この日本伝統の技を現代に受け継ぐ数少ない截金師の1人だ。紙や筆、3000種にも及ぶ絵の具、資料が所狭しと並ぶ自宅兼工房で日々作品づくりに精を出す。

 おもに手掛けるのは仏画や神画、曼荼羅などで、下絵から彩色、仕上げまですべて1人で行う。截金で使用する金箔も数枚を炭火で炙って焼き合わせたものを、手製の竹刀で1本ずつ均一に切り出す。作品によって必要な太さは異なるが、細いもので0・08㎜にもなり、1本の筆で金線を絡め、もう1本で糊を引きながら下書きなしで貼りつけていく。思わず呼吸を忘れてしまうほど繊細な作業の連続。大作になれば1つの作品に4〜5年費やすこともあるという。「やりがいを感じるのは、施主の喜ぶ顔を見た時。やってきたことが報われる瞬間ですね」

 京都で生まれ育ち、幼少から工作が好きな子どもだった。「私、陶芸家になる」。そう周囲に宣言したのは、小学校低学年の頃。父親に連れられて見学した清水焼の工房のことをふと思い出す。クルクルと回転するろくろ、見事な手さばきで生み出される器。面白さにくぎ付けになった。その後、夢を叶えるために苦手だったデッサンや水彩画を克服し、美術工芸高校へ進学。念願の陶芸家への道を一歩踏み出した。

 人生の転機を迎えたのは、高校2年の時。誘われて見学に訪れた仏師の工房で初めて截金と出会った。あまりの美しさに一瞬で魅了され、同時に「これだ」と確信めいたものを感じた。夏休みにはアルバイトとして2日おきに工房へ通い、作業を手伝いながら間近で職人たちの魂に触れた。「きみはいい職人になりそうだ」。そう声を掛けてくれたのが、日本を代表する仏師・松本明慶(みょうけい)氏だった。

 そこからの行動は早かった。近隣で截金を習える教室を自ら探し出し、すぐに入会。工房の作業で得たアルバイト代を月謝につぎ込んで技術を習得したのち、明慶氏に入門した。「『できる。きっと私に合っている』と直感で思いました」。しかし、その決意に難色を示したのが父だった。一般的にはあまり知られていない仏師の世界。休みは年に3回程度、朝9時から夜は11時頃まで修行に明け暮れる娘の身を案じてか猛反対。半ば押し切る形で、まともに口をきかない状態が7、8年続いた。雪解けのきっかけを作ったのは、とあるテレビ番組の取材。截金師として活躍する姿を見たことで徐々に和解。周りが驚くほど以前に増して親子仲は深まり、他界するまで良き理解者として応援してくれたという。

 振り返れば截金との出会いは、まるで引き寄せられるように自然だった。「このめぐり合わせは、なるべくしてなったのかな」。歩んできた過去を懐かしそうに語った。

職人の感性、三浦で磨く

 三浦に住む知人を訪ねた際に見た、夕日に赤々と照らされた富士山がとても素晴らしく心を打った。「ここで暮らしたら感性が豊かになるだろうな」。京都や東京にはない、ゆっくりと静かに流れる時間に心地よさを感じ、移住を決意したのは7年ほど前。今ではすっかり土地に馴染んでいる。日課は早朝のウォーキング。健康維持のためだけでなく、豊かな自然から享受したインスピレーションは仕事の活力にもなっているという。

 たとえば太陽の光が降り注ぐ海や山や畑。どれもつい見過ごしてしまいがちな三浦の日常だが、朝昼晩、刻一刻と表情は変わり、四季を通じて楽しませてくれる。「”鼠百色”との言葉があるように、1つの色でも明るさや濃淡によって全く違う。その意味を三浦の自然から教えてもらいました」

 今年、約40年ぶりに修繕が行われた三崎の海南神社。地元の塗装店とともに塗り替え工事に携わった。海からの風や雨にさらされて傷んだ塗装を一度剥がし、龍や獅子・牡丹の花、本殿の欄間などの彩色を担当した。塗装を手掛けたかつての職人たちに思いを馳せながら作業すること、およそ2カ月。再び色鮮やかに蘇った。先月には修繕完成奉告祭が執り行われ、大仕事を終えた充実感を浮かべながら胸をなでおろす。「お参りの時に少しでも上の装飾に目を向けてもらえたら嬉しいですね」と微笑んだ。

 2014年に初めて個展を開催。書き溜めた曼荼羅や神仏画を披露し、多くの来場者を魅了した。現在は「私らしい作品づくり」をめざして、截金と陶芸の融合に挑戦中だ。試行錯誤を繰り返し、絵付けでは描くことが困難な細やかな金の文様を器の表面に施す技法を考案。試作品の評判は上々で、「これなら日常のなかに溶け込みやすく、今まで截金を知らなかった人にも親しんでもらえるはず」と自信をのぞかせる。

 こうと決めたら一直線。10代から截金に人生を捧げてきた職人としての今後の夢を尋ねると、「皆の中にある何かをゆさぶる仕事をしたい」「人の大事な気持ちに寄り添えるものを作りたい」と胸に秘めた熱い思いが、とめどなくあふれ出る。

 ただひたすら愚直に作品と向かい合い、作り続けることこそが職人の矜持であり、己を動かす力となっている。
 

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