タウンレポート いにしえの馬入 地誌に 八千代町の原康夫さん
「好きなんだ。この土地が」
「生まれ育った古き良き馬入の姿を形に残したい―」。八千代町に住む原康夫さん(72)が、馬入の歴史や村誌、現在の様子を、冊子「馬入地誌」にまとめた。郷土へ思いが込められた一冊ができるまでの過程を、原さんに語ってもらった。
「馬入地誌」は、江戸、明治、平成と、3つの時代に分けて編集した。江戸、明治に関しては原さんが国立公文書館や国会図書館などに赴き、博物館の学芸員に聞くなどして、土地の名勝や伝承されている事物が記された史料、絵図などをかき集めた。そもそも馬入に特化した資料は少なく、昭和20年の平塚空襲でほとんどが燃えてしまったのだという。「残っている資料はとても貴重。それらをまとめて後世に残していけたらという思いもあった」と、原さんは話す。
平成については、地域の特色や施設、人口や世帯数といったあらゆる情報を、馬入を歩き足で稼いだ。市役所や図書館での情報収集はもとより、道行く人や馬入で生まれ育った旧友にも話を聞き、生きた情報を盛り込んだ。
原さんは、昭和16年に馬入(松原地区)の八千代町に生まれ、一度もこの土地を離れたことはない。馬入一帯はかつて、家も少なく、田んぼや畑が広がり、現在からは想像もつかないようなのどかな景色だったという。親しんだ風景が移り変わり、すっかり様変わりしてしまった現在の馬入に対しては「うれしいような、さびしいような」と少し複雑な表情。「やはり子どもの頃に見た馬入の風景は、いつも心の中にあるね」と続け、笑みが戻った。
地誌には、馬入で話されていた方言を10年以上かけて700語をまとめたユニークな表も掲載した。言葉だけでなく、原さんが考えたオリジナルの使用例も記されており、「語・うなう/意・田畑を耕す/例・畑をウナイに行く」など、一目瞭然。参考にしたのは書物だけでなく、旧友との会話もだ。かつて使われていた言葉を思い出しながら互いに記憶の糸を紡ぎ、1語1語増やしていった。
地誌は100部ほど製作し、松原小学校と、市図書館に寄贈したという。「出来上がって、特に感慨深いとかいう気持ちはないんだよね。とにかく、好きなんだ。この土地が」。地元を愛する気持ちは地誌とともにこの馬入で、とこしえに受け継がれていく。
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