この世に生を受け4つ目の元号を迎えようとしている現役美容師が平塚市にいる。平塚江南高校近くに店を構える「美容ムネカタ」(富士見町)の店主・高橋貞さん(93)だ。今も現役を貫く貞さんが新時代に望むこととは。
貞さんは大正15年3月4日、宝町に生まれた。同年12月に大正天皇が崩御、思春期は昭和時代だった。昭和8年、今上天皇のご生誕を祝うにぎやかな提灯行列が平塚駅周辺を練り歩いた華々しい光景は鮮明に覚えている。
太平洋戦争の最中、軍需工場に勤めていた17歳の時、平塚空襲に遭った。「瞬く間に空が黒ずんでいってね」。焼夷弾の炎から身を守るため、平塚の海岸へ急いだが、そこはすでに火の海。松林に身を隠し、生きた心地もせぬまま夜明けを迎えた。「今の横浜ゴムの正門あたりから平塚駅が一望できてね。それだけすべてが焼き尽くされてしまった」。自宅はおろか、たくさんの友達や知り合いの人たちを失くした。
美容師だった母に勧められ同じ道を志したのは終戦後、二十歳の時。母の知人の店で3年修行し昭和26年、25歳で独立、美容ムネカタを開業した。
数人の見習いを住まわせ、寝食をともにした日々は「戦後の厳しい状況もあって、もうがむしゃら。でも、今思うと有り難かったなと思う。命を失うことなく、物事に打ち込めてたわけだから」。
昭和31年、30歳で結婚、一男一女に恵まれた。長女も、31歳になった孫娘も美容師として働き、今も貞さんの仕事をよく手伝ってくれている。
平成の30年間は「幸せと悲しみの両方感じた」。戦争の悲劇を味わった昭和。そして、平成は「いくつもの大きな災害がとても切なかったね」。「だから新時代は幸せに満ちてほしい」と貞さん。
取材で「願うは皆の笑顔」と繰り返した貞さん。腹を立てなくて良い、儲けや得がなくたっていい。「ささやかに穏やかに過ごす時間が続けばいい」と心から願っている。
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