「法律だけが解決の手段じゃない」
今から7年前、岡崎駐在所に一人の警察官が赴任した。今年3月の定年後も、再任用で駐在所勤務を続けている八森武彦警部補(60)だ。赴任直後から地域住民と協力し、岡崎地区で暮らしていたホームレスを一人残らず社会復帰に導いたという”人情お巡りさん”を取材した。
「赴任当初、ホームレスを社会復帰させようなんてことは考えもしなかった」と、八森さんは振り返る。警官の職務の常識的な範囲として、八森さんもホームレスには退去を促すというのが当たり前の考え方だった。
しかし八森さんが赴任したのは、地域に根ざす駐在所。パトロールをしてるうちに、「ただ退去させるだけでいいものか」という疑問が浮かび始めた。その場は退去させても、結局岡崎の別の場所に移るだけで状況は何も変わらないからだ。
住民の不安を肌で感じ始めたというのもあった。「みんな口には出さないけど、少なからず不安を抱いていた」と八森さんは話す。次第に、現状を打破したいという思いにかられたという。
そこで八森さんは、ホームレスと対話することから始めた。最初は警戒し「今、十分幸せ」というホームレスたちも、何度も足を運ぶうちに次第に打ち解け「なぜホームレスになったのか」「これからどうしたいのか」など、本音を少しずつ話すようになった。
八森さんは「話してみるとみんな、少なからず社会に戻りたいという気持ちはあった」と振り返る。しかし就職先など具体的なや段取りがないと、なかなか現状を打破できないというのが実情だった。
八森さん1人での活動には限界があるため、地域の人たちに「何とか協力して欲しい」と頼みながら、働き口や住居の提供者を探し回った。すると受け入れに協力した住民は、元ホームレスの面々の暮らしぶりに「すごく真面目でびっくりした」と驚いたそうだ。
例えば、農家に働きに出たホームレスは朝から休みなく働く勤勉さを見せ、最終的に免許と資格を取り電気工事会社を立ち上げた。また、別の人は貸家に住まわせたところ、周囲の清掃を始め自治会費を納めるなど早々に社会生活に順応したという。
「こちらの本気が伝われば、相手もちゃんと意を汲んでくれる。何より地域の方々の協力があったからこそ出来た」と八森さんは話す。職に就いた人、施設に入った人、故郷に戻った人。赴任当時、10人ほどいたホームレスは全員何らかの形で社会復帰している。
「法でどうこうだけでなく、人として向き合って地域ぐるみで模索し問題を解決する。昔はそういうお巡りさんがいっぱいいたんだよね」と、”人情たっぷりの駐在さん”は、笑顔で話した。
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