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秦野版 公開:2011年12月17日 エリアトップへ

はだのっ子 いま・みらい 教育寄稿第38回 「賢者の贈りもの」 内藤 美彦

公開:2011年12月17日

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 クリスマスが近づいてきました。子供たちは、どんな贈り物があるか胸を躍らせ、贈る親も子供に喜ばれ、役に立つ物をと考える時期です。贈られた相手のにこやかな顔を想像すると心が弾んできます。そんな時、思い出すのがO・ヘンリの「賢者の贈りもの」という話です。

 貧しいけれど、仲の良い信頼し合った夫婦がいました。それぞれが、クリスマスプレゼントを計画します。相手がいちばん喜ぶものは何か、一生懸命考えた結果、夫は、妻の美しい膝までもある髪に似合う鼈甲製の櫛を見つけるのです。妻は、夫の自慢の金時計には不似合いの古い革紐の代わりに、プラチナの鎖を買おうと思います。

 ところが、ふたりには自分の選んだ物を買うお金がありません。そこで、夫は大切にしていた金時計を売って櫛を買います。妻は自分の誇りにしている長い髪を売って、お金に換えるのです。そして、手に入れた品物をお互いに交換します。しかし、妻には、鼈甲の櫛を使う美しい髪はありません。夫のプラチナの鎖が似合う金時計は売られてしまっています。

 ふたりとも、自分の大事なものを失い、贈られた物も、今や使い道はありません。善意が無駄になってしまったことを夫婦は、嘆き悲しんだでしょうか。悲しみより、相手のあまりにも深い愛情を感じ、感激に身を震わせたと思うのです。作者は、ふたりの気持には触れていませんが、最後に、彼らこそ「賢者」なのだと述べています。

 作者のいう賢者とは、祟高な愛を感じさせる人だと思うのです。その愛は、自分のことよりも他者の幸せを図る行為の中に見られると思われます。そこには、損か得かの計算など全くなく、他者に良かれと思う行動が先行するのです。

 ホームから線路に落ちた人を救おうとして、自らの命を失った人がいました。その祟高さに、感動で涙したのでした。東日本災害でも似た話が多く伝えられました。自己犠牲を伴う悲しいことではあります。でも、他者のために、自らを省みない行動が人の世を支えているのです。歴史の中には枚挙にいとまありません。自分より大切なものの存在を知ることは、人間の尊厳をいっそう高めるのです。

■プロフィール

横浜国立大学卒業。秦野市立小学校教諭。秦野市立本町小学校校長。秦野市教育委員会教育長を歴任。
 

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