授業が終わった放課後、横須賀明光高校野球部の練習が静かに始まった。捕手がいない投球練習、投手がいない打撃練習。掛け声は、ない―。「正直、やりづらいと感じることもあります」。そう語るのは唯一の部員である蛭田佳人(3年)。
野球部は昨夏終了後、部員がゼロとなり、休部状態になっていた。そこに加わったのが当時2年生の蛭田だった。状況はわかっていたが「どうしても高校野球がしたかった」―。
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小学生の時、友人に誘われて野球を始めると、すぐ夢中になった。南下浦中では主将を務め、進学した明光高校でも続けるつもりだったが、父親の定年が重なり、家庭の経済事情が苦しくなった。用具を揃えるのもままならず、自身も寿司屋、カラオケ店などのバイトを掛け持ち。部活に打ち込む余裕はなかった。それでも休日に少しでも時間があれば、地元の草野球に混ぜてもらった。白球を追う楽しさは、忘れられなかった。
昨夏、選手権の開会式・試合が行われた横浜スタジアム。蛭田は選手としてグラウンドに立つことはできなかったが、少しでも携わりたいと、球場のバイトスタッフとして働いていた。目の前で繰り広げられる熱戦、球児たちの笑顔、観客の大声援―。その全てがまぶしかった。小さい頃からテレビで見ていた高校野球が、そこにあった。「自分がしたいのはバイトでも草野球でもない。今やらないと一生後悔する」。親も背中を押してくれ、最後の1年はグラウンドに戻る決意をした。
合同チームで出場
今夏は釜利谷(横浜市金沢区)・永谷(横浜市港南区)・三浦臨海(三浦市)と合同チームを結成し、大会に臨む。蛭田はライト兼投手。パワーを活かした長打力と、球威のある投球でチームに貢献する。
平日は距離が遠いため、各校が独自に練習。ホームベース付近にボールを置き、それを目指して投げることで制球力を磨くなど、1人でできることに工夫を凝らす。休日はチームで集まり、試合などで実戦感覚を養う。大敗続きだったが、先月、チーム初勝利をあげた。たかが、練習試合。それでも、全力プレーで仲間と勝利を掴み、共に笑い合った。「”高校野球”って楽しい。心からそう思った」―。最初で最後の「夏」はもうすぐ、やって来る。
■7月16日(土)、午後1時半〜 対麻生総合高校(川崎市):平塚球場
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