造船業で繁栄を極めた昭和の浦賀に焦点を当て、活力のあった時代の記憶と記録を呼び覚ます「浦賀の映画学校」プロジェクトが先ごろスタートした。押入れの隅などに眠っていた8ミリフィルムを集めて復元し、1本の映画作品に仕立てる。横須賀市の「浦賀奉行所開設300周年記念事業」のひとつ。浦賀小学校の6年生が作品づくりの中心的な役割を担い、来年1月に完成上映会を開く。一連の企画立案と監修を務める(株)アルプスピクチャーズの三好大輔氏に取り組みの狙いを聞いた。
──昭和の一時代を表現する手法として、家庭に眠っていた8ミリフィルムを活用するアイデアです。これの企画意図を教えてください。
「8ミリフィルムは、当時を知る資料としての役割だけでなく、家族や地域を繋ぐ力を持っている。モノは無くても工夫しながら暮らしていた時代、そんな浦賀に思いを馳せながら、地域のこれからを考えるきっかけになればと思っている」
──隆盛を誇った「昭和の浦賀」が今回の作品テーマになっていますが、映画制作を通じて児童に伝えたいこと、学んで(体験して)もらいたいのはどこでしょう。
「今よりも不便だっただろう時代に、あんなにも笑顔で生き生きとした表情なのは何故なのか? その理由を考えてもらいたい。自分たちが暮らしている街が持っている豊かさを再認識する機会になれば。失われてしまったものもたくさんあるが、浦賀に暮らす市井の人たちと触れ合うことで、街の豊かさを感じてもらいたい。総合芸術とも言われる映画づくりの多面性を通して、表現することの奥深さも感じて欲しい」
──8ミリフィルムを用いた同様の映画(地域映画)制作を全国各地で展開していると聞いています。完成後(上映後)に地域に何をもたらしたか、どんな成果や反応が得られたか教えてください。
「公民館活動や学校の地域教育として活用され、郷土愛の醸成に寄与している。高齢者施設では、認知症予防の回想法としての利用も増えてきた。映画を観た人たちからは『その土地に暮らしていて良かった』と思ってもらえることが多い。自分たちが生きてきた時代の風景は、当時を思い返す大きな力を持っている。三世代、四世代の家族に集まってもらい上映すると、家族の繋がりがとても強くなるのを感じる。自らが映っていなくても、過去を振り返ることで、今を生きる力に変えていくことが可能なのも、この地域映画の力なんだと思う」
──三好氏が見た、「かつての浦賀」と「現在の浦賀」の印象を聞かせてください。この街のの持つ可能性などについても意見があればお願いします。
「造船と祭り。これが賑わっていたかつての浦賀の印象。大きなタンカーが造られていく風景を、この街の人たちはきっと誇らしく感じていたんだろうな、とドッグ跡地の横を歩きながら想像した。祭りの賑わいを映したフィルムから、地域交流の深さが見て取れる。同じ時代はやってこないけれど、”浦賀気質”のようなものをフィルムから感じ取りながら、自分たちの浦賀をつくっていくことが大事だと思う。現在の浦賀の希望の光は、元気な子どもたち。浦賀小の児童らにその可能性を感じている」
──かつて活気のあった浦賀、それと比して少し元気のない浦賀の現在があります。これを児童らにどう伝え、行動に繋げてもらおうと考えていますか。
「8ミリフィルムに残されている昭和40〜50年代の浦賀は、造船所で賑わっていた頃の記録。その時代に生きていた人たちの元気な姿は、今を生きる人たちに力を与えてくれる。フィルムに映っていた人たちは今も健在だ。映画づくりの中で、魅力的な大人たちに触れ合い、地域の人たちから街の変遷などを学ぶことに意義がある。一人でも多くの大人たちと関わりを持って欲しい」
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